苦難の人生は、情感溢れる音となり、聴く人の心に深く響く。

「自分の音は、作るものじゃなく自然に出てくるもの。私みたいな分厚い手が一番いいんですって。でも自分の演奏を後で聴くのは好きじゃない。そのときの苦しさを思い出してしまうから」

 映画で気に入っているのは、自宅とたちのシーンだ。

「パリ、東京、ロサンゼルス、ベルリン……特に京都の家の場面が好き。私は父が建築家だったから、家にはすごくこだわりがあるの。猫はいま25匹。留学時代からかわいそうな猫がいると聞くと放っておけない。自分の食べるものはなくても、猫の餌を買いましたよ」

 チャリティーコンサートなど動物福祉にも力を注いでいる。

「ほんの少しだけを私は助けることができるけど、世界中の人や動物を助けるわけにはいかない。シリアの問題をはじめ、世の中には悲劇的なことが多すぎる。そういうときは神様に『どうぞ彼らを苦しめないようにお助けください』って祈るしかない」

 音楽も力になると感じている。

「私は悩んでどうにもならないときには、音楽を聴きます。病気みたいに悲しかったのが、薬を飲んだみたいにスーッと癒やされる。それに私には猫たちがいるから。つらいことがあっても、泣いてるひまもないの」

(ライター・中村千晶)

AERA 6月18日号