マキタスポーツ/1970年、山梨県生まれ。俳優、著述家、ミュージシャンなど多彩な顔を持つ。スポーツ用品店だった実家の屋号を芸名に。著書に『すべてのJ-POPはパクリである』『一億総ツッコミ時代』ほか。映画「苦役列車」でブルーリボン賞新人賞受賞
マキタスポーツ/1970年、山梨県生まれ。俳優、著述家、ミュージシャンなど多彩な顔を持つ。スポーツ用品店だった実家の屋号を芸名に。著書に『すべてのJ-POPはパクリである』『一億総ツッコミ時代』ほか。映画「苦役列車」でブルーリボン賞新人賞受賞
女性はクリームシチューよりビーフシチューのほうが好き?(※写真はイメージ)
女性はクリームシチューよりビーフシチューのほうが好き?(※写真はイメージ)

 お笑い芸人のマキタスポーツさんによる「AERA」の新連載「おぢ産おぢ消」。俳優やミュージシャンなどマルチな才能を発揮するマキタスポーツさんが、“おじさん視点”で世の中の物事を語ります。

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 女性に「クリームシチュー」か「ビーフシチュー」かの二者択一を迫った時に出る反応について多くの読者は何も知らない。ここには深淵な何かが隠されている。

 例えば我が家のこと。「クリームシチューを食べたい」とリクエストすると妻は決まって浮かない顔をする。ちなみに私は結構な頻度でクリームシチューは食べたいと思う方だ。遠慮気味に言って月に一度は食べたい。合間にカレーや、他、煮物がローテーション要員にいるが、その一角に入っていいと思っている。その方が彼女も楽だろうに。しかし、その一角にクリームシチューが入ることは無い。妻が“浮かない顔”をするからである。

「我が家固有の問題」と思ってやり過ごしていたがどうにも腑に落ちず、行く先々でアンケートのようなものを取ってみたところ妙なことが浮き彫りになってきた。

 男性の9割以上が「クリームシチューに好意を持っている」のに対し、なんと、6割以上の女性が「好きでもなければ嫌いでもない」と答えたのだ。驚きである。さらに調べると、独身女性と、既婚女性とではクリームシチューに対する意識が違うこともわかってきた。独身女性が「彼氏に言われてなんとなく……」とか、「抵抗あったけど、みんな作ってたから……」とかだったのに対し、既婚女性は、

「はっきり言って作りたくない」

「応えたいけど、本音は苦痛」

「子供が出来てからめっきり」

 等々、由々しき回答が相次いだ。

 なぜこのような反応があるのか。追求していくとあることがわかった。

 それは女性のかなりの数がビーフシチュー好きだったことである。

「クリームシチューvs.ビーフシチュー」

 思ってもいなかった対立構図。なるほど、戦争とはこのように、戦いたくもない相手といつの間にか戦っているものなのか……。二つの仮説を立てることに。

「男性がクリームシチュー好きなのは、家庭の味だから」

「女性がビーフシチューを好むのは、家庭から解放される食べ物だから」

 誰でも簡単に出来るシチューの素が発売されたのが昭和41(1966)年。戦後約20年、時折しも経済成長真っ只中。家庭モデルの見直しが行われ、都市型の専業主婦が推奨されていた、そんな時代。女性は、女であるよりも、良き母となり、亭主と子供だけを支える良妻賢母型が求められた。男は外で働き稼ぎを家に入れる。それが最も経済や日本を動かすにあたって効率的と思われていたのである。家を守る象徴としての母、その母の作る“効率的な家庭料理
というイメージで刷り込まれ、献立の新顔に入り込んだのがクリームシチューとは言えまいか。

 これじゃ現代の女性はさぞや窮屈に思うことだろう。比べると、ビーフシチューは「家庭料理」というイメージは薄い。どちらかと言えば外食でいただくイメージだ。つまり「解放する食べ物」とはそういうことなのである。

 妻に伝えてみた。「だからキミは浮かない顔をしていたんだね」と。すると、

「いや、あなたがクリームシチューをご飯にかけるのを見るのが本当に嫌なの」

 だそうである。

AERA 2018年6月11日号

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マキタスポーツ/1970年、山梨県生まれ。俳優、著述家、ミュージシャンなど多彩な顔を持つ。子供4人。スポーツ用品店だった実家の屋号を芸名に。著書に『すべてのJ-POPはパクリである。』ほか。映画「苦役列車」でブルーリボン賞新人賞受賞。近刊に『越境芸人』(東京ニュース通信社)。『決定版 一億総ツッコミ時代』(講談社文庫)発売中。

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