「かつては終電の後に、電車だったら持ちきれないくらいの大量の本をご購入されてタクシーで帰られるお客様がよくいらっしゃいました。六本木ならではの光景だったと聞いています。ここにしかない本の一部は表参道の本店に移動し、本店の棚も模様替えします。提案もしつつ、お客様のニーズに機敏に応えられる書店をめざしていきます」

 有終の美を飾る様々なブックフェアも行われる。すでにスタートしているメインのフェアは総合タイトル「編集する読書術」の名の下に展開される三つで、(1)「工作舎からはじまる3冊」(杉浦康平氏ら6人の識者と工作舎、ABCスタッフによる選書)(2)「松岡正剛フェア」(3)「ABC歴代棚担当が選ぶ3冊」(黄金時代を支えたOB・OGスタッフのセレクト)だ。

「リアル書店で本が売れない」は聞き飽きた。他業種を併設した複合形態が増えている現状を冷ややかに見る態度も、なんら生産的ではない。

 老舗・今井書店が手がける、本と雑貨の小売り・カフェを融合させたSHIMATORI(鳥取県)や、岩波ブックセンターの跡地に誕生した、書店・イベントも開けるコワーキングスペース・喫茶店の複合体である神保町ブックセンター(東京都)などは、いましばらくは評価を下すよりも応援していきたいと思う。

 本好きが本というモノを手に取って見初める場所を必要としている限り、書店はなくならない。そしてABC六本木は、あの新刊棚で、平台に惜しげもなく置かれた写真集や画集で、洋書で、思想書で、まだまだ未知の世界が広大に存在していることをわれわれに教えてくれた。

 本当に、ありがとう。そしてさよなら、ABC六本木店。(ライター・北條一浩)

AERA 2018年6月11日号