成功鎮には、日本統治期に官吏を務めた茨城県出身の菅宮勝太郎(すがみやかつたろう)(1883~1943)が残した木造2階建ての建物があり、現在は同教会の所有となっている。同教会はこの建物を地域の活動拠点へとリニューアルする計画を進めており、特産品の展示販売も行う古書店やカフェとしての活用はすでに始まっている。講座もこの計画の一環で、劉牧師は「この建物にいろいろな機能を持たせることで、地域のより多くの人を手助けすることができます。地方ではこうした取り組みが重要です」と述べた。

 1月22日に北源村へ往診に赴いた余氏。その日予定していた3軒の診察を終えると、時計は午後6時を回っていたが、それでもまだ診療所には戻らない。北源村の李重民(リチョンミン)村長(55)を訪ねて夕食をともにした後、李村長宅のガレージにスタンバイだ。午後7時すぎになると住民が集まり始め、10人余りが参加して意見交換会が始まった。名付けて「在宅サロン」。

 テーマは認知症。北源村は80歳以上の140人のうち、3~4人に1人は認知症とみられるが、はっきりとした実態は分かっていない。余氏は「高齢者に必要なのは人との交流。これが刺激になり、認知症の発症や進行を遅らせることができます」と静かに説く。

 参加者は、どの家にどのような症状を抱えた高齢者がいるのか情報交換をしていく。この日の結論は、認知症患者の実態把握に向けて、同診療所と住民が村内で調査を行うというもの。日本の在宅医療の草分け的存在として知られる長野県の佐久総合病院が戦後まもなく着手した全住民の健康調査に着想を得た取り組みだ。

 台湾東部で始まった在宅医療の活動は、日本で培われてきたノウハウも取り入れながら、独自の根付き方を模索していく。(ジャーナリスト・松田良孝)

AERA 6月11日号より抜粋