河面乃浬子さん(左)、吉澤智洋さん(中央)と参加者の石井英資さん。「変身」後は、歩き方指導やポーズをつけての写真撮影もあった(撮影/藤原雪)
河面乃浬子さん(左)、吉澤智洋さん(中央)と参加者の石井英資さん。「変身」後は、歩き方指導やポーズをつけての写真撮影もあった(撮影/藤原雪)
岩堀成悦さんはストリート系のイメージでスタイリング。「昔は気持ち悪いと言われたが、今は結構おしゃれだねと言われて嬉しい」(撮影/藤原雪)
岩堀成悦さんはストリート系のイメージでスタイリング。「昔は気持ち悪いと言われたが、今は結構おしゃれだねと言われて嬉しい」(撮影/藤原雪)

 ひきこもりの人が髪形や服装を変えたら、人との距離が近くなり、生きづらさも和らいでいく──。そんな取り組みが始まっている。

【参加者のビフォア・アフターはこちら】

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 昨年12月、スタイリストの河面乃浬子さんと美容師の吉澤智洋さんが、不定期のイベント「ひきこもりトータルビューティープロジェクト(HTBP)」を立ち上げた。今年4月までに千葉県我孫子市の美容院などで計3回開かれ、のべ38人が参加した。

 吉澤さんが髪のカットとスタイリングをした後、河面さんが持参の洋服やストール、帽子などを使い、外見を演出する。すると参加者は見違えるほどあか抜け、くすんでいた表情もぱっと明るくなった。参加した30代の男性は「自分は醜く、人に見せられる姿ではないと思っていたけど、そこまでひどくはないかもしれないと思えた」と、笑顔を見せた。

 美容院は、ひきこもりの人にとって最もハードルが高い場所の一つだ。おしゃれな内装に気後れし、店員の「お仕事は何を?」という言葉に傷つけられる。美容院嫌さからろくに散髪もせず、ますます外に出づらくなる……という悪循環は、ひきこもりの「あるある」だ。

 参加者の瀧本裕喜さん(37)もそんな一人だった。18歳でひきこもり、25歳の時7年ぶりに鏡を見ると、髪が肩まで伸び、約40キロ太った自分がいた。「ショックすぎて15分間、動けませんでした」

 外に出ると、チラシ配りの人にすら避けられた。だが身なりを整え体重を15キロ落とすと、電車の隣の席に人が座るようになった。「見た目が変わると人が近づいてくる。社会とつながる可能性が出てくると痛感しました」。HTBPの写真をSNSにアップすると「周囲の人からこれまで以上に、気さくに話しかけられるようになったと感じる」。

 河面さんは5年前の冬、ひきこもり当事者の会などでスタイリングの活動を始めた。初回に現れたのが石井英資さん(35)だ。石井さんは当時、バイト先の塾と自宅を往復するだけの生活を6年半続け、自分がにおうと思い込む「自己臭恐怖症」や強迫性障害も発症して「精神的にボロボロだった」という。

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