「品川アウトドアオフィス」と名付けられたイベント。広々とした芝生広場に3種類の席が用意された(撮影/伊ケ崎忍)
「品川アウトドアオフィス」と名付けられたイベント。広々とした芝生広場に3種類の席が用意された(撮影/伊ケ崎忍)

 東京都心で今、自然の中でキャンプを楽しむように会議や仕事に勤しむ「アウトドアオフィス」が広がりを見せている。その効果や人気の背景にあるものとは?

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 品川や渋谷のアウトドアオフィスは、テントやキャンプ用品を手がけるアウトドア用品大手「スノーピーク」(新潟県三条市)の子会社、「スノーピークビジネスソリューションズ」(愛知県岡崎市)が運営する。全国の企業にアウトドアオフィスの導入を呼びかけている、「仕掛け人」的な存在だ。

 同社の村瀬亮代表取締役は言う。

「アウトドアオフィスの大きな効き目は、『ワクワク』を生み出すことです。目先の効率を考えるのではなく、新たな何かを生み出すためのアイデアには“ワクワクする感じ”が欠かせません。外で会議するという非日常感がそれをもたらしてくれるんです」

 先月の営業成績や目先の経費節減の話ではなく、画期的な新商品や新サービスを生み出すにはアウトドアオフィスがおすすめ、というわけだ。

 音や風などの外的要因も見逃せない。アウトドアオフィスには、様々なノイズ(雑音)がある。時折吹き抜ける風、木々のざわめき、鳥のさえずり……。しかし、それらは「いいノイズ」であり、いわばBGMの役割を果たすものだと村瀬さんは言う。

 防音性能の高い窓や壁に囲まれ、ノイズを極力シャットアウトしたオフィスや会議室で、他人の話し声やパソコンのキーを打つ音、電話のベルといった物音に気を取られた経験は誰もが持っているだろう。一方、アウトドアオフィスでは外からのノイズが周囲の物音を打ち消してくれるだけでなく、耳に心地よく響くことでむしろ集中力を高めてくれるという。

 自然は、アウトドアオフィスにとって最大の味方であり、最大の敵でもある。

 スノーピークビジネスソリューションズによると、テントに10席程度の机と椅子を備えたアウトドアオフィスを設置するのにかかる費用は、テントの購入費用など数十万円。ただ、雨や強風の日は利用者が集まりにくく、安定的に高い収入は見込めない。快適に使える時期は限られ、年間を通じて使うにはコストをかけて暑さや寒さへの対策をする必要も出てくる。アウトドアオフィスの運営だけで採算を合わせるのは、かなり難しいという。

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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