基本的にクオリティーは高いが、外部の批判に弱く、報道の誤りを素直に認めたがらない、というのが楊井さんの大手メディア評価。

「間違いがあってはならない、という意識が強すぎるためか、誤りをごまかしたりすることも多いんです」

 埋もれている誤った情報を可視化しようと12年に日本報道検証機構を立ち上げ、誤報検証サイト「Go Hoo(ゴフー)」を開設、昨年のFIJ立ち上げにつながった。

 海外に比べて遅れている日本のファクトチェック。その要因を、事実よりも、右とか左といった立場で物事を見てしまうからと楊井さんは指摘する。自分の立場と関係なく「本当の事実」に迫るというスタンスを持っている人は多くない、と。

 ある海外の新聞社では編集部に“Facts matter.”(事実が大事)の標語が大きく掲げられているという。楊井さんは言う。

「極めて当たり前のことをわざわざ掲げるのは、人間は往々にして自分たちの見たいものだけを見てしまうからではないか」

 事実とは、立場を超えて共有できる認識だ。意見や考え方は多様であるべきだが、「ゆるぎのない事実」を共有しない限り、議論は成り立たない。「事実に到達することは簡単ではありません。思い込みで判断することも、はっきりしないことも多い。もしかして自分はわかっていないのではないか。認識をいったん疑ってみることは、情報が氾濫しているなかでは必要なことだと思うんです」

(編集部・高橋有紀)

AERA 2018年6月11日号より抜粋