高齢者向け住居では有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅が数を伸ばしているが、月額の利用料は15万~25万円で、預貯金や年金額が少ないと利用できない。一方、軽費老人ホームは食事代を入れても10万円以下のところが多く、「国民年金でもギリギリ暮らせる」(先の軽費老人ホームの施設長)が、その数は有料老人ホームの4分の1程度と少ない。

 貧困老人の実態を描いた『下流老人』著者でNPO法人ほっとプラス代表理事の藤田孝典さんは「高齢者が安く住める住居施設が圧倒的に足りない。空き家などを利用し、整備していく必要がある」と危機感を見せる。藤田さんのもとには無料低額宿泊所に関する相談が絶えない。

「生活保護を受給させ、月に数万円しか渡さず、劣悪な環境に住まわせる。養護老人ホームや軽費老人ホームなどの高齢者住宅施設が整えば、貧困ビジネスも成り立たない」(藤田さん)

『老人に冷たい国・日本』などの著書があり、高齢者福祉に詳しい明治学院大学元教授の河合克義さんはこう指摘する。

「2000年の介護保険制度の導入によって、行政サービスの大部分が民間に委ねられたのと同時に行政が高齢者の状況を把握しづらくなった。介護保険サービスを実際に利用している高齢者は全体の2割に満たない。その他8割の『動ける人の問題』にも目を向けなければならない」

 その最たるものの一つが、住宅問題であることは間違いないだろう。

(編集部・澤田晃宏)

AERA 6月4日号より抜粋