「通院に困難を抱える患者さんも、オンライン診療で少しでも負担を減らすことで、治療を継続してもらえるのでは」

 2017年4月から福岡市、福岡市医師会、医療法人社団鉄祐会が行った実証事業「ICTを活用した『かかりつけ医』機能強化事業」では、アンケートを実施。医療機関側がオンライン診療を利用したい目的の上位は、「通院困難者への対応」(33.1%)や「治療離脱防止」(14.9%)だった。

 また、「3時間待ち、3分診療」と揶揄される日本の現況を考えると、「家族・介護者の負担軽減」(12.3%)のニーズも見逃せない。通院の付き添い一つで半日がかりという場合も、ざらにあるからだ。

 さらに、三橋さんのように、介護する側が高齢というケースもある。母、和子さんは、悩みは尽きないと言う。

「息子本人は、先々の生活費や治療費のことも心配しています。私自身、80歳近いし、もし私が死んだらこの子はどうなるのかと考え出すと、頭がパンクしそうです」

 だからこそ、「通院一つでも負担が減るのは、私もありがたいです」と本音を明かした。

 鉄祐会理事長で、オンライン診療システムの開発を手がける「インテグリティ・ヘルスケア」(東京都中央区)会長の武藤真祐医師(47)は、後期高齢者が急増する2025年問題をにらみ、限られた医療資源の中で医療の質や価値を向上させるには、医療の効率化が必須だと話す。

「今後は外来や訪問診療など医師と患者が対面で行うオフラインの医療の一部をオンラインの医療が補完する時代になる」

 国は医療のICT化を進めている。金融における情報革命「フィンテック」などと同様、医療・ヘルスケア分野にも「第4次産業革命」の技術革新を取り込む。オンライン診療の推進はその一環でもある。厚生労働省が「オンライン診療の適切な実施に関する指針」を公表したのは、18年3月末のことだ。

 久米隼人・厚労省医政局医事課課長補佐は、誰もがスマホを持ち、ビデオチャットができる時代に、「電話主体の時代に制度化した遠隔医療のルールを見直し、時代に合わせた指針ができるのは必然」だと言う。同時に今、多死社会を迎えるに当たり、地域医療のあり方も変わっていく移行期にある。

「例えば、在宅医のニーズが多い地域では、病状の安定した慢性期の患者さん宅への医師の訪問回数を減らし、訪問看護師を派遣して医師が遠隔で診療を行うスタイルも増えてくるでしょう」

(ノンフィクションライター・古川雅子)

AERA 2018年6月4日号より抜粋