VR認知症体験では、「視空間失認」「見当識障害」「レビー小体病の幻視」という三つの認知症の中核症状を当事者目線でリアルに体験する。「私をどうするのですか」(視空間失認)から(写真:シルバーウッド提供)
VR認知症体験では、「視空間失認」「見当識障害」「レビー小体病の幻視」という三つの認知症の中核症状を当事者目線でリアルに体験する。「私をどうするのですか」(視空間失認)から(写真:シルバーウッド提供)
「ここはどこですか」(見当識障害/写真下)から(写真:シルバーウッド提供)
「ここはどこですか」(見当識障害/写真下)から(写真:シルバーウッド提供)
5月中旬、社会福祉法人富士白苑主催のVR認知症体験会では、約1時間半のプログラムに約100人が参加した(撮影/岡田晃奈)
5月中旬、社会福祉法人富士白苑主催のVR認知症体験会では、約1時間半のプログラムに約100人が参加した(撮影/岡田晃奈)

 専用のゴーグルなどで仮想の世界を体験する「バーチャルリアリティー(VR)」。認知症の人たちの感じ方を知り、心に寄り添う取り組みが広がる。

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「着きましたよ」

 気づけばビルの屋上のような高い場所にいる。視界は奇妙にゆがみ、はるか下方に道路が見える。横から人の声がする。
「降りますよ」

 え? いやいや、無理でしょ。

「大丈夫ですよ」

 首を後ろに向ければ、男性が降りろと言ってくる。もう一度周囲を見渡す。やはり、ここは屋上だ。まさか、この高さから、飛び降りろというのか──。

 周囲に促され、足を地面につけると、視界が切り替わる。高齢者ホームの玄関前に立っている。送迎バスに乗り、外出先から帰ってきたところのようだ。

 5月中旬、神奈川県で開催されたVR(バーチャルリアリティー)認知症体験会。地元住民や介護関係者を含む、約100人の参加者たちが、認知症の当事者たちに見えているかもしれない、認知症の中核症状のいくつかをVRで体験した。冒頭は、空間の位置関係を把握するのが困難になる「視空間失認」を再現したコンテンツだ。

 会場では、VRゴーグルとヘッドホンを装着した参加者たちが、戸惑った様子を見せていた。VRにつられて、思わず足を踏み出そうとする人もいた。

 体験後、参加者たちは感じたこと、考えたことを話し合う。生々しい体験に、言葉は自然と口をついて出てくる。

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