しかもそれがSNSによって一瞬で社会全体に伝わる。昨夏開かれた高校野球甲子園大会でも一塁ベース上の交錯プレーが「足蹴り」として炎上した。

 行きすぎた主従関係をベースにして選手に圧力をかける指導方法は、日大だけではなく「これぐらいは許される」文化の背後で横行しているようだ。

 前出の大豆戸FCの子どもたちはコーチと自由に意見を交わすが、中学1年で入団してくる他クラブ出身の子どもは違う。

「コーチの言った通りにしなくてはいけないと思い込み、自分で考える習慣がないように見える。そこを修正するのに1年かかる」(末本さん)。都内のサッカークラブで指導する男性は「試合に出てほしいばかりに、『コーチに逆らったら出られなくなるよ』などと保護者が間違った指示をしている」と憤る。

 日大でも選手の思考を停止させ、追い詰めたとみられる。このような悪(あ)しき文化をなくし、悪質タックルのような問題が二度と起きないようにするには、インテグリティー(誠実さ)を強化する必要があると中竹さんは言う。

「手前味噌かもしれないが、ラグビー界全体として2010年くらいからその重要性を各チームに伝えてきた。スポーツを見る人もフェアプレーの醍醐味を味わうほうに転換してほしい」

 日大出身で桐蔭横浜大学大学院スポーツ科学研究科准教授の渋倉崇行さん(46)は「卒業生をやめたいくらい憤りを感じている。大企業を始め社会では集団規範が熟成されてきたのに、取り残されている。当事者である日大にいたからこそ、この問題に取り組みたい」と力を込めた。(ライター・島沢優子)

AERA 2018年6月4日号