電子レンジは80年代半ば、普及率が約5割に達し、90年代半ばには約9割に到達。それに呼応するように89年、チャーハンレシピに「ご飯(温かいもの)」の表記が初めて登場する。

「温かい堅めのご飯でつくると、ベチャッとした仕上がりになりません」(城戸崎愛「焼き飯」)

 90年代に入ると、『美味しんぼ』や「料理の鉄人」などのグルメブームを背景にチャーハンのレシピ数は激増。わずか10年の間に、それまでの30年分をしのぐ数を紹介している。ご飯の表記も「ご飯(温かいもの)」が主流になるが、「炊きたてのご飯はアツアツで水分が多いのでチャーハンには向かない」(西部るみ)、「ご飯はバットに広げて室温に冷ます」(程一彦)といった記述も。ご飯はただ温かければいいというわけでもなさそうだ。どうすればいいのか? そもそもチャーハンの目指すべき「ゴール」は何なのだろう? 科学する料理研究家さわけんさん(50)を訪ねた。

「理想のチャーハンの姿は“パラパラ、しっとり”です」

 さわけんさんは、そう説明する。しかし家庭でチャーハンを作るには“二つのギャップ”があると言う。

「ひとつはチャーハンの本場・中国との米のタイプの違いです。日本の米は日本人の好みに合わせ、炊くともっちりするように品種改良されている。ふたつめが、プロの厨房に比べて家庭のコンロの火力が弱い点です」

 米を炊くとは、でんぷんを「α化=糊化」させる作業だ。炊きたては水分が多く軟らかい。このため米同士がくっつきやすいので、チャーハンを作るには少し冷ます必要がある。ご飯は放熱すると水分が飛び、でんぷんは「β化=老化」し硬くなる。逆に硬くなりすぎたら少し熱を加えるといい。そうすると糊がゆるみ、ほぐれやすくなるからだ。

 ではベストの温度は何度なのか? さわけんさんは「人肌程度」だと言い、冷蔵保存していたご飯を電子レンジで温めた。触ってみると、温かくも冷たくもない。まだところどころにご飯の固まりがあったが、気にしなくていいという。固まりは手で割れる程度の硬さで、フライパンで加熱すると徐々にほぐれていった。

 ただしひとつ注意点がある。ご飯の適正量を守ることだ。

「1回に作る量は2人分まで」

「きょうの料理」が60年間繰り返し伝えてきた鉄則だ。(編集部・石田かおる)

AERA 2018年5月28日号より抜粋