介護福祉士で、ノアールの活動にも携わる辻本敏也さん(43)は、障害者の性が理解されにくい背景には、超え難い分断があるのではないかという。障害者に性欲がないと思っている人は、障害がある人を一人の人間としてではなく、「障害者という人」という、枠にはめて考えているのではないか、と。

「障害者の性ではなく、人の性の問題の中に障害を抱える人の性の問題もあると考えることが大事だと思います」(辻本さん)

 前出の米村教授は、障害者の性の自律には社会全体で向き合う必要があると説く。

「福祉の基本は、一人ひとりの問題に対応し生活を支援すること。同じ社会に生きる人に生じている障壁を取り除くことは、個人的な問題ではなく社会全体で支えなくてはいけない。そのためには、人間にとって性とはどういうものなのかを、まずは教育で教えることが必要です」

 性とは生きる根本だ。

 脳性麻痺で車いす生活を送るまゆみさんにとって、性とはエネルギー。恋をすると幸福感でいっぱいになり、「女」に生まれて良かったと思う。その性の問題を解消することは、わがままなことでも贅沢なことでもない。いつかまゆみさんは、気が強くて、必要な時は思いきり喧嘩ができる人と恋愛をしたいという。そして、こう話した。

「壊れるほど抱いてほしい」 (編集部・野村昌二)

(※)正式には高は「はしごだか」を使用します

AERA 2018年5月28日号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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