碧野圭(あおの・けい)/1959年、愛知県生まれ。フリーライター、出版社勤務を経て、『辞めない理由』で作家デビュー。ドラマ化された『書店ガール』シリーズなど、著書多数(撮影/横関一浩)
碧野圭(あおの・けい)/1959年、愛知県生まれ。フリーライター、出版社勤務を経て、『辞めない理由』で作家デビュー。ドラマ化された『書店ガール』シリーズなど、著書多数(撮影/横関一浩)

『駒子さんは出世なんてしたくなかった』は、42歳の管理課課長・水上駒子に突然降りかかった昇進辞令をきっかけにスタートする物語だ。作者の碧野圭さんに、同著に寄せる思いを聞いた。

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 書店を舞台にしたベストセラー『書店ガール』シリーズをはじめ、多くの働く女性の物語を書いてきた碧野圭さんの最新刊『駒子さんは出世なんてしたくなかった』。そのタイトル通り、突然降りかかった昇進辞令に戸惑う出版社の管理課課長である水上駒子と、彼女をめぐる社内、社外の人間模様が描かれる。

「キャリア女性のセミナーを取材した時に、女性は昇進の話がくると『なぜ私が?』と必ず言うと聞きました。実際に昇進した人の話を聞いてもやはり戸惑っている。どういうことだろうと考えたことがきっかけで、こういう物語が生まれました」

 駒子は専業主夫の夫と高校生の息子と暮らす一家の稼ぎ手である。その駒子でさえ昇進の前に腰がひけるのだ。碧野さんは「これが絶対とは思わないが」と前置きした上で、女性たちへの思いを語る。

「そういう状況になったらなるべく受けてほしいな、というのはありますね。女性管理職だからこそできることもたくさんあるはずですから。昇進する女性はどうしても女性の代表にさせられてしまう。けれど、それこそがおかしいことで、もっと女性管理職が増えればそんなこともなくなるんです」

 本作にはもう一つ重要なテーマがある。セクハラだ。新人編集者の花田瑠璃子は書籍事業部部長をセクハラで訴えたが、部長は取締役を外されただけで部長職にとどまった。そして、被害者である花田は社内に居場所を失い、駒子の部下になる。

「セクハラという言葉自体、私が社会に出たころはまだなくて、ちょっと触るくらいはコミュニケーションだと思っている人間がすごく多かった。50代以上の世代はどこかにそれがあるし、偉くなれば許されると勘違いしている人もいっぱいいる。自分の娘がやられて嫌なことはやっちゃダメだろうと。なぜそれがわからないんでしょう」

 女性が仕事を続けていく上でぶつかるさまざまな問題を内包して進む物語には明確なある結論が用意されている。決して完璧な人間ではない駒子の奮闘はとてもリアルで、だからこそ共感できる。碧野さんが小説を書く上で大切にしているのも、まさにそこだという。

「ラストがうまく行き過ぎると思う人もいるかもしれません。でも、現実の職場ではしんどいことの方が多いので、物語くらいはハッピーエンドにしたいな、と。読んで明日から頑張ろうって思えるような、そういうものを書いていきたいなと思っています」

(ライター・濱野奈美子)

AERA 2018年5月28日