姜尚中(カン・サンジュン)/1950年熊本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍
姜尚中(カン・サンジュン)/1950年熊本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍
拉致問題の解決に進むには?(※写真はイメージ)
拉致問題の解決に進むには?(※写真はイメージ)

 政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。

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 米朝首脳会談が6月12日にシンガポールで開催されることになりました。米朝会談へのプレリュード(前奏曲)の位置づけだった南北首脳会談で非常に驚いたのは、朝鮮戦争の終結に向けて積極的に働きかけていこうという南北の姿勢が色濃く表れていたことです。非核化についての具体的なイニシアチブは米朝首脳会談に預けることになったわけですが、その限りにおいて南北首脳会談は成功だったと言えます。

 さらに驚いたのは5月5日に北朝鮮が標準時間を30分早めたことです。これまで北朝鮮の標準時間は、日本の植民地支配からの解放70年を記念して導入されていた「平壌時間」でしたが、日本や韓国と同じ標準時間に戻しました。現代は金融や情報といったありとあらゆるレベルで、グローバルな時間に合わせないと動いていきません。つまり北朝鮮は世界経済の中にジョイントしたいという意思を明確にしたのです。

「完全かつ検証可能で、不可逆的な非核化」を米国は求めています。対する北朝鮮は「完全かつ検証可能で、不可逆的なセキュリティー」です。中短のミサイルがたなざらしになるのではという心配もありますが、それはないでしょう。なぜなら、そんな中途半端なことでは、韓国も妥協できませんし、そんな状態では北朝鮮の望む経済制裁の解除はできないからです。米国は11月に中間選挙があります。それまでに合意できるなら米朝首脳会談は成功だと言えるでしょう。

 日中韓首脳会談の共同宣言では「拉致問題が対話を通じて可能な限り早期に解決されることを希望」と明記されました。

 私は10年以上、休戦協定が終結し平和協定に切り替えられなければ拉致問題は解決しないと言ってきました。ようやく米朝首脳会談でそのめどが立つわけです。点数稼ぎのような形で日朝首脳会談をセッティングすることは国益に反することになりかねません。日朝平壌宣言にのっとって過去を清算し、拉致問題の解決に進めるのではないでしょうか。もちろん、まだ予断を許しませんが、大きな流れはそうした方向に動いていきそうです。今こそ日本は腰を据えて取り組むべきだと思います。

AERA 2018年5月28日号

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姜尚中

姜尚中

姜尚中(カン・サンジュン)/1950年熊本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍

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