小島慶子(こじま・けいこ)/タレント、エッセイスト。1972年生まれ。家族のいるオーストラリアと日本との往復の日々。近著に小説『ホライズン』(文藝春秋)。最新刊は『るるらいらい 日豪往復出稼ぎ日記』(講談社)
小島慶子(こじま・けいこ)/タレント、エッセイスト。1972年生まれ。家族のいるオーストラリアと日本との往復の日々。近著に小説『ホライズン』(文藝春秋)。最新刊は『るるらいらい 日豪往復出稼ぎ日記』(講談社)
GWに登山客の姿が戻った熊本・阿蘇の中岳山頂付近 (c)朝日新聞社
GWに登山客の姿が戻った熊本・阿蘇の中岳山頂付近 (c)朝日新聞社

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

【写真】GWに登山客の姿が戻った熊本・阿蘇の中岳山頂付近

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 連休はどこかへ旅行しましたか? 普段は都会に住んでいるけど、自然の豊かな場所に行ってきたという人もいるでしょう。もちろんその逆も。

 都会と田舎を行ったり来たりするのがいいのだ、と解剖学者の養老孟司さんは言います。特に都市生活者は、意識的に田舎と行き来した方がいいのだと。ずっと都会にいると変化にさらされることが少なくなって、学びの機会が減ってしまう。だから、時々自然の中に身を置いて、普段とは勝手が違うことに身を晒してみるといいのだそうです。

 確かに、日常は決まったことの繰り返しですよね。職場や学校と自宅の行き来の中で、同じ風景を見て同じ人々と会って、同じスキルを使い同じストレスを受ける毎日。生きていくってそういうことだと思ってやり過ごしているけれど、それでは学びが少ないというのはわかる気がします。

 私は東京と、オーストラリア第4の都市パースとを月に1度は行き来しているのですが、田舎というほどではないものの、やはり東京よりは全てがコンパクトで、自然との距離も近いパースでの生活は新鮮です。海の色や空の色、空気の香りなど、五感に訴えるものに出合うたびに、変化を堪能するように体が開いていくのを実感します。

 東京で出稼ぎ中は一人暮らしで、自然のかけらといえば部屋に生けたバラと近所の公園の植え込みくらい。時々、自分が空中に浮いているような心許なさを感じます。

 それにつけても思い出すのは、子どもたちがまだ幼かった頃。朝晩のお迎えに振り回される日々で、これがあと何年続くのかと、つくづく憂鬱になりました。だけど、変化に満ちた毎日でもありました。何しろ子どもたちはひと時も同じでいません。その成長ぶりはまさに自然の驚異でした。

 体を違う場所に持っていくのは、脳が学び続けるためには大事なこと。それがかなわなくても、猛烈に成長している子どもとの涙と笑いの毎日は、それだけで冒険なのだと思います。子育ては、ルーティンと新鮮な発見に満ちた、壮大なる旅なんですね。

AERA 2018年5月21日号

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小島慶子

小島慶子

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。共著『足をどかしてくれませんか。』が発売中

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