ジュビロ磐田の名波浩監督。日本人指導者は国際経験が少ないことが多いが、名波監督は海外でのプレー経験もあることが強みだ (c)朝日新聞社
ジュビロ磐田の名波浩監督。日本人指導者は国際経験が少ないことが多いが、名波監督は海外でのプレー経験もあることが強みだ (c)朝日新聞社

 6月14日のロシアW杯開幕を約2カ月後に控えたサッカー日本代表の突然の監督交代劇は、スポーツの枠を超えて大きな話題となった。

 ヴァイッド・ハリルホジッチ前監督(65)が解任され、後任には西野朗・前技術委員長(63)が就いた。成績不振が理由であれば、プロの監督がその職を追われることは不思議ではない。事が大きくなった背景には、W杯直前という時期の悪さと、解任の主な理由が「選手とのコミュニケーションや信頼関係が多少薄れてきた」という何とも曖昧なものだったことがある。

 ただ、日本サッカー協会(JFA)と代表監督を夫婦関係に例えれば、“離婚”は起こるべくして起きた。前監督の力量とは別に、そもそも性格の不一致、価値観の違いは明らかだった。

 ハリルホジッチ前監督が強調し続けた「デュエル(1対1の球際の戦い)」や「縦に速い攻撃」は元来、日本が不得意とする部分だった。言い方こそ違えど、かつての代表監督もW杯での失敗要因に「フィジカルの弱さ」(ジーコ)、「インテンシティ(プレー強度)の低さ」(ザッケローニ)と似たような指摘を繰り返していた。いわば、これは言わずと知れた日本の伝統的な課題で、一朝一夕に改善できるものではない。だからこそ、その後の指導者にはこの課題を理解したうえで、俊敏性や機動力など日本人のよさを生かしたサッカーが期待されていたのではなかったか。それでも、前監督は最後まで「デュエル」や「縦に速い攻撃」など自身の哲学にこだわり続けた。これでは夫婦関係は冷え切り、コミュニケーションがなくなるのは当然の帰結だった。

 ハリルホジッチ前監督は2014年のブラジルW杯でアルジェリア代表を率い、ベスト16では優勝したドイツを最も苦しめたとされたが、それは日本とは長所が異なるアフリカ人らしさを全面に生かした戦い方だった。つまり、ハリルホジッチ前監督は初めから日本にとって理想のタイプではなかったのだ。

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