作品の世界に入り込む稲垣吾郎。長谷川博己演じるかつての同級生を訪ねるシーンでは、現場を歩き回りながら何度も台詞を口にした (c)半世界
作品の世界に入り込む稲垣吾郎。長谷川博己演じるかつての同級生を訪ねるシーンでは、現場を歩き回りながら何度も台詞を口にした (c)半世界
焼き上がった炭をサイズごとに選り分けていく。慣れた手つきで箱に炭を詰める様子は、まるで本物の炭焼き職人のようだ (c)半世界
焼き上がった炭をサイズごとに選り分けていく。慣れた手つきで箱に炭を詰める様子は、まるで本物の炭焼き職人のようだ (c)半世界
「稲垣くんは陽だまりのような人」と阪本順治監督(右)。時折見せる笑顔が現場の緊張をほぐしてくれる (c)半世界
「稲垣くんは陽だまりのような人」と阪本順治監督(右)。時折見せる笑顔が現場の緊張をほぐしてくれる (c)半世界
ちょっと疲れた表情も新鮮 (c)半世界
ちょっと疲れた表情も新鮮 (c)半世界

 2019年公開の映画「半世界」。今年2月上旬から1カ月間、三重県南伊勢町でロケが行われた。そのロケに2日間密着。そこには、私たちの知らないもう一人の稲垣吾郎がいた。

【まるで本物の炭焼き職人のような稲垣吾郎の写真はこちら】

*  *  *

 無精ひげが生えているというだけで、ちょっとドキドキしてしまうのは、それが稲垣吾郎(44)だからだろうか。

 汚れた作業着に色あせたジーンズ。目深に被ったニット帽からは鋭い眼光が覗く。いつもの「吾郎ちゃん」からかけ離れた風貌なのは、阪本順治が監督・脚本を務める映画「半世界」で主人公の炭焼き職人・紘(こう)を演じるためだ。稲垣の妻という重要な役どころの池脇千鶴(36)が「すすだらけの中年男性」と評する紘はたぶん、これまでに稲垣が演じてきた人物の中で最も男臭い。

 その、男臭さ全開のロケ現場に2日間、密着した。

「瑛介! いるんだろ、瑛介!」

 静かな山奥の町に稲垣の怒声がこだまする。古びた木造家屋に早足で近づいていくと、ゴンゴンと少し乱暴に、玄関のガラス戸を叩く。

 紘が長谷川博己(41)演じる中学時代の同級生・瑛介の自宅を訪れるシーンだ。

 映画「半世界」では、豊かな自然が残る地方都市を舞台に、かつて同級生だった紘と瑛介、そして渋川清彦(43)演じる光彦、3人の生活と交流が描かれる。

 3人の男たちは、人生を諦めるには早過ぎるけれど、焦るタイミングとしてはちょっと遅い、39歳という設定。人生の折り返し地点が近づいた彼らは、誰もが突き当たる悩みや葛藤を抱えながら、「残り半分の人生をどう生きるのか」を不器用に模索していく。

 紘を演じるにあたって、稲垣はこう話している。

「男3人でこの世代というのはTVドラマでもなく、最近見たことのない映画になるのではないでしょうか。僕自身(中略)山の男役でとても新鮮です」

 監督の阪本はなぜ、主演俳優に稲垣を選んだのか。

「『土の匂いのする役を演じてもらったら面白いかもしれない』って、興味が湧いたんです。稲垣さんの印象は、エレガントで洗練されていて社交的。その彼が紘のような狭い世界で生きる土着の人間をどう演じるのか、純粋に見てみたかった」

 役柄を説明するにあたって、阪本は稲垣にこう伝えたとい

「紘は“自分を認めてあげられない人間”だ」

 自分はまだ何者にもなれていないという無力感と、そこからくるいら立ち。そんな紘の葛藤を表現するため、稲垣は試行錯誤する。

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