「20年ほど前であれば、公表に反対の事業者もあり踏み切ることができなかったかもしれない。しかし、東日本大震災や地震を経て、一般の人にも建物の診断・補強に対する意識は高まった。人々の命を預かる建物である以上、耐震化を真剣に考えていくべき時期にきている」

 もっとも、評価が「高い」「ある」であっても違法建築物というわけではない。耐震改修の実施も「努力義務」で、罰則はない。とはいえ、施設名が公表されることで、顧客の不安を招くなど悪影響が出かねない。

 危険性が「高い」と診断されたニュー新橋ビル。ビルは「建て替え」の方向で検討しているというが、ビルの担当者はこう話す。

「やっぱり『倒壊』という言葉に非常にインパクトがある。『倒壊』『倒壊』と言われちゃうと、お客さんが来なくなる」

 実際、過去には、施設名が公表されたことで閉店や営業休止を決断せざるをえないケースが起きている。

 名古屋市中心部にあった老舗百貨店「丸栄」。昨年3月に市の公表で新館の危険性が「高い」と診断されると、既存テナントから退店の申し出も相次ぎ、今年6月末に閉店することが決まった。福島市でも危険性が「高い」とされたJR福島駅前の百貨店「中合(なかごう)福島店2番館」が昨年8月、19年の歴史に幕を下ろした。

 そのため、今回の診断結果で倒壊の危険性を指摘された施設の中には、すでに耐震改修に着手した事例もある。

 所有する新紀尾井町ビルで危険性が「ある」と判定されたニューオータニ。同ビルはホテルに隣接しているが、第1期工事は16年8月に終了。第2期工事は今年度着工し19年3月の完成を目指すという。

「お客さまの安全を第一に考えています」(マネージメントサービス部)

 SHIBUYA109が入居する道玄坂共同ビルでは改修設計をしており、19年度から工事に移る。科学技術館は、本館を除く3棟の耐震補強を今年10月着工、本館も21年春に改修に着手する予定だという。

 東京都の耐震化推進担当は言う。

「倒壊のリスクがあることを意識して、しっかり取り組みを進めていってほしい」

(編集部・野村昌二)

AERA 2018年4月30日-5月7日合併号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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