「この、大ばか者!」

 今回の事務次官のセクハラ疑惑では、被害女性が所属する「テレビ朝日」の対応にも疑問の声が上がっている。同社は事務次官の辞任表明を受け、19日未明に記者会見を開き、自社の社員がセクハラ被害を受けたと発表。この女性社員は1年半ほど前から被害を受け、身を守るために会話を録音した。女性社員はセクハラの事実を報道すべきだと上司に相談したが、

「二次被害の可能性があり難しい」と伝えられ、週刊新潮に連絡。取材を受け、録音の一部も提供したという。

●時代の変わり目が来た

 同社の篠塚浩取締役報道局長は「社員からセクハラ情報があったにもかかわらず、適切な対応ができなかった」と陳謝するとともに、「当社社員が取材活動で得た情報を第三者に渡したことは報道機関として不適切な行為」と遺憾の意を表明した。

 被害を受けた女性記者が音声データを週刊誌に渡したことについて、前出・早田弁護士はこう指摘する。

「本来はテレビ朝日で報道すべきだったが、ダメだったので外部に持ち込まざるを得なかった。公益通報と趣旨は同じ」

 相手に無断で会話を録音する是非についても早田弁護士は「録音はセクハラを裁判で立証するために必要不可欠な証拠。セクハラの相談を受けたら、録音してください、とアドバイスします」と述べ、被害対策の常道との認識だ。

 19日に財務省に抗議文を提出した同社は、被害申告を受けた初動に対応できなかったことについて本誌に「上司1人ではなく複数の判断で対応できたのではないかと考えております」とコメントした。

「伊藤詩織さんの件もそうですが、日本では被害者が声を上げてもバッシングされる。勇気をもって告発しても結局つぶされてしまう。今回も絶望的な空気が広がっていました」

 そう話す少子化ジャーナリストで相模女子大学客員教授の白河桃子さんは「マスコミと霞が関の体質が40年遅れ」と指摘する。

「企業はかなり変わってきています。経済合理性が働く民間は人材不足の中、リスクとして看過できないのです」

 白河さんは航空会社の例を挙げる。

 日本ハムの前執行役員が昨年10月、羽田空港のラウンジで女性従業員にセクハラ発言したことが、航空会社の指摘で発覚。同席していた末沢寿一前社長と前執行役員は今年1月付で「一身上の都合」を理由に辞任した。白河さんは言う。

「(航空会社は)しっかりクレームを主張しないと、自社の不利益になることがわかっていたんだと思います」

 白河さんは福田事務次官の辞任表明に接し、「89年にセクハラが新語・流行語大賞になって以来の歴史的瞬間かもしれない」と感じたという。

「昨日と今日は、もう違う。隠蔽しようとしてもダメ。時代の変わり目だということを、しっかり認識してほしい」

(編集部・小柳暁子、渡辺豪)

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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