「6歳の時から私には物の形を写したいという欲求があった。(中略)73歳になって私は何とか植物や木々の成長、鳥や動物、昆虫、魚の構造が理解できるようになった。80歳になった時にはさらに向上していたいものである」

 これには同じ絵描きとして脱帽だ、としりあがりさんは言う。

「90歳まであれだけの勢いで描き続けるってスゴイこと。絵も好きだけれど、生き方がすごい。とても真似できません」

 自伝には90歳、100歳、110歳へのビジョンも記されている。

「北斎は90歳になっても自分はまだ描けていない、100歳、110歳になったらもっとすごい絵が描けるだろう、と考えていた。『まだ描けていない』というのは、自分には見えているのに、それが表現できていない、ということ。いったい彼には何が見えていたのでしょうかね」

 先ごろ外務省は次期パスポートのスタンプを押す見開き部分のデザインに「冨嶽三十六景」を採用すると発表した。20年の東京オリンピック・パラリンピックを念頭に、19年度から導入する。

 北斎ブーム、ますます盛り上がりそうだ。(ライター・中村千晶)

AERA 2018年4月23日号より抜粋