「かぐや姫の物語」はある種、絶世の美女が周りを翻弄する話。絶世の美女がどんな女性かといえば、実は面倒でわがまま放題。そんな姫が朝倉の声にハマっていた。

「表面的には終始笑顔で自己主張を押し通さないように見える人こそ頑固だったりする。外部とどう折り合いをつけていいかわからないからとりあえず愛想笑いをしているほかない、みたいな感覚は若い世代に顕著な傾向としてあるかも。朝倉さんにも僕自身にもそういうものはあると思ったので、自分たちを通してその見えない膜のようなものを描きたいと思いました」

 朝倉だけではない。「本作のテーマの一つが声」と言うほどキャスティングは声にこだわった。

「見た目は服装などでごまかせても、声はごまかせない。声は、自分の中にあった空気を声帯を震わせて相手の鼓膜を揺らすことで伝わる。つまり、物理的な接触がある体と体のコミュニケーション。視覚だけでは大きな予算の映画に勝てなくても、声のハーモニーという繊細さでこの映画が観客に刺さるところはあると信じています」

 映画の終盤で、初海は抱え込んでいた秘密を吐き出し新たな一歩を踏み出す。ラジオから流れる声に反応する彼女の、ラストシーンで見せる満面の笑みが気持ちいい。(フリーランス記者・坂口さゆり)

AERA 2018年4月23日号