北極海は閉鎖海なので、いずれかの沿岸国の海域を通過しなければならない。そのため、沿岸国の力が非常に強く、北方航路を利用するにはロシア政府の許可をとる必要がある。ロシア北方航路局の統計によれば、17年の同航路の利用許可件数は計662件で、うち107件が外国船籍だった。その約18%にあたる19件が中国(香港含む)籍の船で、日本船籍からの申請はなかった。

 海洋政策研究所海洋政策チームの本田悠介研究員によると、北方航路を使った日本の船は、11年に許可を取得して商業航行した三光汽船の1件だけだという。北極海航路を利用する際には、安全面の問題から海氷を砕く砕氷船の同行が義務づけられている。さらには保険や船員の訓練など総合的な費用を考えると決してコストダウンにはならないと判断する企業が日本には多く、従来の南回り航路を変更するだけのメリットを感じるまでには至っていないという。

 中国は、アイスランドなどの北欧5カ国と共同で研究機関「中国・北欧北極研究センター」をつくるなど、北極圏に戦略的に関与し、影響力を担保しようとしている。ロシアが北極圏で力を入れだした資源開発事業にも積極投資を行うなど、温暖化の影響で活発化している北極圏の開発においても存在感を示し始めている。韓国も自前の砕氷船の造船など北極圏をにらんだ政策の強化に政府が前のめりだ。

 今はまだ「将来の可能性」でしかない北極圏の開発だが、それが現実的に利益を生み始めた段階で介入しようとしても遅い。将来の主導権や発言権をにらんで中国などは、先行投資のような形で今から積極的に動いているとみられている。

 こうした状況が背景にあって、日本に積極関与を求めるグリムソン前大統領の発言につながったとみられる。(編集部・山本大輔)

AERA 2018年4月23日号より抜粋