北極海航路と従来航路の比較(AERA 2018年4月23日号より)
北極海航路と従来航路の比較(AERA 2018年4月23日号より)
欧州の貿易拠点の一つ、ハンブルク港(ドイツ)。横浜港から北極海航路を使えば、従来の南回り航路より短い日数で行けると言われている(写真:gettyimages)
欧州の貿易拠点の一つ、ハンブルク港(ドイツ)。横浜港から北極海航路を使えば、従来の南回り航路より短い日数で行けると言われている(写真:gettyimages)

 全てが凍てつく氷の世界・北極。この極寒の地では今、世界最悪のペースで温暖化が進んでいる。皮肉にも、解けた氷で海は開け、新たな航路の争奪戦も起きている。

【写真】欧州の貿易拠点の一つ、ハンブルク港

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 海氷が小さくなっていくことで海が開け、北極海へのアクセスがこれまでよりも容易になってきた。新たな資源を北極海に求めたり、船の航行が容易になったりしていることで、「忘れられた地域」だった北極圏が、皮肉にも人間の経済活動の対象地域と生まれ変わりつつある。さらに海氷の減少が進むと見られている将来の可能性を見据えて、すでに開発競争が起きているのだ。

 2月8、9の両日、日本財団などが主催する「北極ガバナンスに関する国際ワークショップ」が東京で開かれ、米ロなど10カ国以上から約110人が出席した。これにあわせて来日したアイスランドのグリムソン前大統領は記者会見で、日本に対して、こう注文をつけた。

「北極圏における地球温暖化の速度は速く、氷の融解はアジア諸国にも大きな影響を及ぼす。海氷が解ければ、カナダやグリーンランドを経由して、アジアと欧州、米国を結ぶ航路が新たにできる。すでに中国と韓国の主要な海運業者が参入しており、日本が海運業での現在の地位を維持したいのであれば、新たな開拓に関わるべきだ」

 グリムソン前大統領が言及したのは、北極海を通ってアジアや欧米をつなぐ「北極海航路」だ。北極海航路には、ロシア沿岸を通る「北方航路」(=ロシア呼称。「北東航路」とも言う)と、米アラスカやカナダ沿岸を通る「北西航路」の2ルートがある。ただ、複雑に入り組んだ群島海域であるカナダ沿岸を通る「北西航路」の利用は限定的で、経済開発に重点を置くロシアが売り込みに積極的な「北方航路」の商業利用が増えている。そのため、日本で北極海航路と言った場合、一般的には北方航路を指すことが多い。

 ベーリング海峡を抜けて北極海に入り、ロシア沿岸を通って欧州へ行くという北極海航路(北方航路)は、マラッカ海峡やスエズ運河を通り、地中海へと抜ける従来の「南回り航路」と比べて、例えば横浜港(日本)・ハンブルク港(ドイツ)間の距離は、約8千キロも短くなる。航行速度などにもよるが、航行日数は10日程度の短縮となり、コストも3~4割減になるとする分析もある。アジアの国としては、「21世紀の海上シルクロード」構想で北極海を戦略的なシーレーンと位置づける中国が、すでに航路を積極活用している。

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