石田:リョウはどんな欲望を持つ人も決して排除しないからね。その女性のオリジナルの欲望を実現したい、かなえたいっていう気持ちは、リョウだけでなく、男性なら持っていると思う。

松坂:確かに。女性の中の欲望がふと見えた瞬間に、「可愛い」って思ったりしますからね。リョウのフィルターは、そういう意味でとても優しいんです。相手を包み込むようなまなざしがある、というか。

石田:僕の作品の中でも、『池袋ウエストゲートパーク』のキングとこのリョウは、すごく女性の人気が高い。レッテルを貼って排除するということをしない優しさは、桃李くん自身にも通じる気がするけどね。

──原作が書かれた01年とは、男女の性愛も変化しています。

石田:「草食系」なんていう言葉はありませんでした。ここ20年足らずで、欲望のポテンシャルというか、エネルギーは落ち続けていると思います。この映画を見て、少しでも欲望に火をつけてほしい。性欲が薄いことが、すべての不幸の源だから。

松坂:確かに。僕より下の世代は、恋人をつくらない、恋愛に興味がないという感覚の人も、けっこう増えている気がします。

石田:最初から、「どうせ満たされないから」「結婚したってセックスレスになるんだから」って欲望を持とうとしないでしょ。それを僕はなんとかしたいなと思っているんです。みんな潤いが足りなすぎるよ。とげとげしいもん。この映画を見て、お酒でも飲んで、そのままホテルに行ってほしい。この映画で日本中の欲望を揺さぶりたい。

松坂:この映画、濃密なコミュニケーションのきっかけをつくるにはぴったりだと思います。

石田:もう一つ。女性は年齢を気にしすぎだよね。「男性は女性を年齢で差別する」なんて言うけど、一番差別しているのは女性自身だと思う。「もう若くない」と、どんどん可能性を削ってしまって。

松坂:この映画では江波杏子さんが、老女だけれどどこか可愛らしい、まぎれもない「女性」を演じています。どんな人にも魅力がある。コンプレックスで武装するのはもったいない。自分が欠点だと思うところこそ、実は魅力だったりするんですから。

(ライター・まつざきみわこ)

AERA 2018年4月2日号