3月9日に巨人入団が決まってから、慌ただしい日々を送った。キャンプを全く過ごしていないため、1軍の全体練習ではサインプレーや牽制(けんせい)といった他の野手との連係に多くの時間を費やした。

 米国より軟らかいとされるマウンド、滑りにくく小さいボールへの対応も、手探り状態からのスタート。「日本には、日本のやり方がある」と一つの策として、かつて在籍していたときの投球フォームに戻した。開幕を前に「やり残したことばかり」と漏らしたこともある。

 結果を残しながら、日本流の野球を思い出していく──。これは難しい作業では、と問われた上原は「時間が足りないのはある。でもどうにかなる、ように願っています」。現状、どうにかなっている。どころか勝っている展開での八回を任され、不可欠な存在になっている。

 2人とも、今はチームに尽くすことを第一に考えている。イチローが入団会見で「僕が培ったすべてを捧げたい。優しく迎えてくれた。忠誠心が生まれるのは当然のことだと思う」と言えば、上原は「一生懸命、がむしゃらにやるだけ。便利屋になろうと思っている」。

 球場を一変させるほどの雰囲気をまとっているのも、共通点だ。イチローは3月29日の開幕戦セレモニーで紹介されると、球場が大歓声に包まれ、打席に向かうときにはスタンディングオベーションも起きた。上原は同31日の初登板で名前がコールされると、東京ドームの大型ビジョンに「Welcome Back」の文字が躍った。敵地でも、大拍手で迎えられる。

 40代中盤にさしかかっても、逆境を力に変えている2人。その懸命な姿が、見る者の胸を打つのだろう。(朝日新聞スポーツ部・井上翔太)

AERA 2018年4月16日号