世界選手権では、全日本のフリーでミスした3回転サルコウも工夫した。樋口にとっては簡単すぎて感覚だけで跳べるジャンプ。本番の緊張感のなかでは予想外のミスが出やすい。そこで順番を変えて、サルコウを冒頭に。難しいステップから跳ぶ振り付けにして加点を狙った。

「最初の3回転サルコウだけ緊張して跳んでしまえば、あとはしっかり練習してある『3回転+3回転』なので大丈夫。落ち着いて息を整えれば、演技後半まで集中できるようになりました。全日本選手権後、何回も曲をかけて、絶対に失敗しない練習を重ねました」(樋口)

 結果、7本のジャンプはスカッとするほどのキレのよさ。うち5本では、「+3」をつけるジャッジが出た。樋口は言う。

「全日本後は気持ちの切り替えが大変でしたが、それがあったから今日の演技がありました」

 樋口の銀、宮原の銅で日本女子は来季の世界選手権3枠を確保。直後から、樋口の心はその来季に向かっていた。話題の中心はトリプルアクセル。昨年4月に初めて成功して以来、毎日欠かさず練習を続けている。

「来季は絶対に入れます。去年成功したときのタイミングや氷の感覚はすごく覚えている。早く成功率を上げたいです」

 ミラノから帰国した翌日、伊藤みどりにトリプルアクセルのコツを聞く機会があった。

「跳んだ後、右足に軸を移すのが遅くて両足で降りてしまう」

 と言う樋口に伊藤は、

「新葉ちゃんは私と同じパワフル派。つい力で跳んでしまうけれど、実際には振り子のように体重を移動させる。タイミングで跳んだほうがいい」

 無限大の可能性を秘めた17歳が、4年後に向けて走り始めた。(ライター・野口美恵)

AERA 2018年4月9日号