そう口説かれて入社。はたして最初の配属は地方支社だった。口もうまかったようだ。いまでも役員や部長として経営の第一線に立つ人も多い。

 Aさんは支社でバブリーズに連れられて飲みに行き、朝4時までずっと説教された。その日、二日酔いでバブリーズよりも出社が遅れると、再び朝4時まで説教が続いた。

 だが、一気に天地がひっくり返った。バブル崩壊、そして金融ビッグバン。株価が89年末、地価も90年末にピークを打ち、急降下を始める。

 保険会社は加入者から受け取った保険料を元手に有価証券や不動産を買い、運用する。日に日に資産価値が下がるなかで97年以降、債務超過に陥るなどして立て続けに破綻した。

 危機に瀕した会社の経営幹部は破綻の発表を翌日に控え、

「持ち株会を通じて、自社株をたくさん買ってきた。明日、これが紙くずになると知っているけど、売れないよな」

 と、Bさんに語ったという。Bさんは、この幹部の声や表情をいまも忘れない。社長を責めるでもなく、みずからの力不足を嘆くでもなく、運命を受け入れるしかない──。(呼称はすべて当時)

(編集部・江畠俊彦)

※AERA 2018年4月9日号より抜粋