ベトナムでは今、若い世代が米国への留学を目指し、企業も米国と積極的に仕事をするなど、対米感情は極めて良いという。ただ、ドー氏は、こうも語る。

「トランプ大統領の米国第一主義は、米国の国際社会での影響力を弱めていく。友好国の多くが、米国と協力することに消極的になっていくだろう」

 10日の南山大学での講演には、同校の学生や関係者ら約180人が出席。ベトナムでの活動を報告したベイム氏の後に壇上に立った藤本教授は、ベイム氏の活動をこう評価した。

「自らの従軍体験から、戦争の悲劇がもたらされたのは、他者への理解の欠如、すなわち無知の代償であり、この無知の代償が、9・11以後の米政府の単独主義的な対応と愛国主義的な米国民意識に依然として見られることに、警鐘を鳴らしている」

 警鐘がなかなか届かないことにベイム氏は納得していない。

「私が倫理観の国だと信じている米国は、いまだに存在していない。私は今、亡国の人間だ」

 ただ、希望は捨てていない。

「トランプ大統領が誕生したことは、逆にいい結果をもたらすかもしれない。あまりにもひどい政権だからこそ、米国をようやく正しい方向へ矯正するだけの強い反動を生み出す力になり得る。トランプ氏をどこまで許容するのか、米国人が試されている」

(編集部・山本大輔)

AERA 2018年4月2日号より抜粋