今年1月、チームインダスにハクト側が問い合わせると、期限までにロケットを飛ばすことができないと分かった。詳細は明らかにされなかったが、チームインダスの資金難と着陸船の開発の遅れが原因とみられている。

 月面探査レースはやはり「ムーンショット(壮大な挑戦)」だったのか。

 宇宙ビジネスに詳しいコンサルタントの石田真康さん(38)は、こう評価する。

「レースは、深宇宙(Deep Space)の領域へ民間が参入する起爆剤になった。有力参加チームは宇宙開発事業の資金調達を活発化させた。特にispaceへの巨額投資の背景には、ハクトの中間賞受賞や経験値も評価されたのではないか」

 主催するXプライズ財団は、「革新を起こすエンジンになる」と自らを位置づける。リンドバーグが大西洋単独無着陸飛行レースで成功したことが、航空業界の発展を促したように、民間による宇宙産業活性化に意義があった、と海外メディアも伝える。

 現在インドに留め置かれているソラト。車体に支援者の一部の名が刻まれている。3千人を超えるハクトの支援者の思いを「必ず月へ持っていく」と袴田さんは会見で話している。

 ispaceは、調達した世界最大級の資金をもとに2020年末までに自前の着陸船で月に到着し、ローバーを月面で走らせる計画を発表している。ハクトのDNAと技術を生かし、発展させていく「未来図」がここにある。

 ハクトは最終5チームの中で一番最後にレース断念を財団に対し伝えたという。勝者になれたはずだという自負がのぞく。

 安倍晋三首相は3月20日、宇宙ベンチャーへ今後5年間で約1千億円の資金供給をする方策を発表した。宇宙ビジネスに風は吹いている。

 袴田さんはその直前、取材にこう語っていた。「月面開発ビジネスが活発化するのは2020年だとみている。その時に我々は月面探査のプレーヤーになっていなければならない。実績をいち早く残した者こそが勝てるから」。38万キロ先の未来を現実にしようとしている。(朝日新聞デジタル本部・井上未雪)

AERA 2018年4月2日号