「食べ物の好き嫌いをしないとか、粗末にしないだったり、顔や頭を攻撃しないのは、大前提です。親御さんが一緒にご覧になったとき、これは見せたくないと思われない表現、ストーリーにすることは意識していますね」(内藤さん)

 プリキュア商品全体のブランディングを担当している、バンダイメディア部の渥美真紀さんはこんな変化を感じている。

「昔はアニメ作品の玩具は買い与えたくないとおっしゃるお母さんがたくさんいました。ところが、シリーズとして続ける中でプリキュアは『一度は女の子が通る道』だと思ってくださるお母さんが増えた。それはプリキュアが作品に込めてきた、諦めない心を持つこと、仲間の大切さといった思いが届いているからではないでしょうか。親御さんがお子さんに伝えたいこととも一致している。言葉ではうまく伝えられないことも、アニメだと心にスッと入ることがある。その辺もプリキュアが支持される理由の一つかなと思います」

 そうして迎えた15年目。記念イヤーとなる「HUGっと!プリキュア」は主人公、野乃はなが空から落ちてきた赤ちゃんの「はぐたん」を育てながら、お仕事体験もして、プリキュアとしても戦うという大忙しの設定だ。担当する内藤プロデューサーはその理由をこう話す。

「15周年ということで、大きなテーマとして『未来』が浮かびました。未来には無限の可能性がある。そこで要素として『仕事』を物語に取り込めないか考えました。また、原点回帰への思いもありました。女の子たちがド直球で憧れるような、明るくてめちゃくちゃ強いプリキュアを作りたかった。少年モノなら強さは戦闘能力です。でもプリキュアなら? そう考えたとき、弱いものを守る強さじゃないかと思った。すべてひっくるめたら『働くお母さん』になったんです」

 女の子の憧れが「お母さん」ならいささか古い気もするが、「働くお母さん」、ワーママならリアルかもしれない。しかし、と内藤さんは言う。

「決して、働いて子どもを育てる母の姿を、女の子のあるべき姿だと描くつもりはありません。ただ目の前で弱い存在が虐げられていたら助けたいと思う、そういう気持ちが一番の強さであると見えるといいなと。今は赤ちゃんを連れて電車に乗るのも気を使う世の中で、もっと社会が寛容になってほしい。赤ちゃんは一人じゃなくて家族や地域、みんなで育てるものだと伝えたい思いもあります」(内藤さん)

 初代のプリキュアを見ていたメインの層を5歳と仮定したら今年でハタチ。今後プリキュアを見て育った女性が社会の中心になっていく。プリキュアを生み出した初代プロデューサーの鷲尾天さんは言う。

「自分たちが込めた思いが、どう沁み込んだか知りたい気はします。15年経ったけど、女の人は変わらず大変そうです。それでも自分の足で立って、活躍する女性がどんどん出てくれるといいですね」

(ライター・大道絵里子)

AERA 2018年3月26日号より抜粋