それってすごく重要なんです。僕自身も試合会場に行くと、真っ先に観客席に行って滑っている自分をイメージしたり、テレビカメラが並ぶ場所に行って、自分だったらどういうカット割りをするか考えたりして、「メンタルリハーサル」をしていました。

 スピードスケートは、前日の段階で、誰と何番目に走るかがわかるので、マッサージ中も試合の様子を頭の中でイメージする。普通はマッサージされると眠くなるんですが、試合をリアルにイメージしていると心拍数が上がってくるんです。

石川:スタートラインに立ってるな、と思うだけで心拍数が上がるんですか。

清水:ええ。そうやって前日から用意していく感じです。

石川:僕は経営者の方と話す機会も多いんですが、優秀な経営者ほど、翌日のリハーサルをしっかりしていますね。

 ビジネスの世界では最近、「マインドフルネス」が大流行しています。心拍数を測って、自分がどれだけ緊張しているのか、あるいはリラックスしているのかを把握する。そのうえで適切に休憩を取る、なんてことをやっていますけど、黒岩さんはそれを、30年以上前からやっていたんですね。スポーツの世界のほうが、ビジネスのずっと先を行っているじゃないですか。

 イギリスでは最近、政治家たちが「ウィニングカルチャー」、つまり「勝つための文化」の作り方をチームスポーツに学ぶべきだというので、スポーツ選手に熱心に話を聞いているらしいです。

清水:僕も会社経営を始めて思いましたが、やっぱりビジネスって、チームスポーツなんですよね。野球とかサッカーとかラグビーとか。僕の会社の専務は昔、野球をやっていた人なんですが、チーム作りがすごくうまいので、助かっています。そこは、僕のような個人競技の選手にはかなわない感覚ですね。

石川:僕は最近、スポーツの研究に力を入れていて。「オリンピアンの目標設定の仕方は普通の人とどう違うのか」「限界をどう認識しているのか」「限界の前で止まった人と乗り越えた人の違いはどこにあるか」などに興味があるんです。

 清水さんはご自身の「限界」をどう超えていましたか。

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