さらにロシアは、米大統領選で民主党候補ヒラリー・クリントン氏や同党本部をハッキングしたとされる「グシファー2.0」や、ローマ法王がトランプ氏を支持したなどの偽情報を拡散したとされる「インターネット・リサーチ・エージェンシー(IRA)」といった別動部隊も使いながら、世論工作を展開していると見られている。

北朝鮮もそうだが、普段は通常の営業をしているIT企業が、指令があるとサイバー工作活動に動く。政府の外側にある請負部隊で、『ミリシア(民兵)』と呼ばれているが、捕まっても政府とは無関係だと主張できる」と土屋教授。インターネットには、一般人が入り込めないダークウェブと呼ばれる深層世界があり、「ある組織のハッキングが1時間○○ドル」などという取引が行われるブラックマーケットになっている。

「見えない先制攻撃なんです。ミサイルを撃って失敗したら大変だけど、サイバー攻撃は失敗をしてもどうってことない。非常にやりやすい先制攻撃です」

 ただ、米大統領選では想定以上に工作効果が出すぎて、「ロシアは目的を果たせなかった」と土屋教授は分析している。
「米国に対抗する強い大統領を演じないといけないプーチン氏にとって、プーチン批判を繰り返すクリントン氏が当選したほうがよかった。サイバー攻撃は選挙制度そのものに疑いを持たせるのが目的で、『クリントンは、ちゃんと選ばれた大統領じゃない』などという批判を展開するはずだった。それが予想外のトランプ勝利で、目的が果たせなかった。トランプ勝利でプーチンが得たものは何もない」

 国際社会では今、国際法をサイバー空間にどう適用するかの議論が起きている。統制権限を政府に認めて国家が責任を持つようなルールづくりを主張するロ中に対し、米欧日は、検閲の正当化につながるとして、情報の流通の自由などに最大限考慮しながら既存の国際法で対応することを強調。ここでも対立が起きている。ロシアにしてみれば、「それなら情報の自由を活用していろいろとやりますよということ」(土屋教授)で、その結果、統制強化の方向へ国際世論を導く思惑がにじむ。

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