稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年、愛知県生まれ。元朝日新聞記者。著書に『魂の退社』(東洋経済新報社)など。電気代月150円生活がもたらした革命を記した魂の新刊『寂しい生活』(同)も刊行
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年、愛知県生まれ。元朝日新聞記者。著書に『魂の退社』(東洋経済新報社)など。電気代月150円生活がもたらした革命を記した魂の新刊『寂しい生活』(同)も刊行
嵐の翌日、近所の道路に椿が散っていました。美しい! 身近なものを愛でて生きていく私(写真提供:本人提供)
嵐の翌日、近所の道路に椿が散っていました。美しい! 身近なものを愛でて生きていく私(写真提供:本人提供)

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【写真】稲垣さんが身近で見つけた美しいと感じたもの

*  *  *

 先日、近所の米屋さんにゆうパックを買いに行きました。このお店は郵便の受け付けもしてくれて、最近のシステムに疎い私は、いつもご主人に何を送りたいのかを説明し、「それならコレがいいよ!」と相談に乗ってもらってとても助かっているのです。

 で、今回の荷物は確定申告関係の書類だったので、自然に景気や仕事の話になり、ご主人が言うには「1年ほど前から売り上げがガクッと落ちて大変」とのこと。アマゾンに端を発した生鮮品宅配サービスの影響ではというのです。個人店はどこも大変みたいだよ、うちはもう年寄りだからいいけどさ、若い人はこんなんじゃとてもやっていけないし、やらせようとも思わないよ、とのこと。

 そうだったのか。私はちょっと震撼しました。

 中年一人暮らしの私が今、近所で人間関係を作ることができているのは、こうした小さなお店があってこそです。日々数百円の買い物をするだけですが、ちょこちょこ会話をして、顔を覚えてもらい、おすそ分けをもらったりあげたり、常連さんと仲良くなったり、まさに街のホットステーション!

 しかし考えてみれば、確かにどのお店も店主はお年寄りばかり。売り上げ激減となれば、いやそれ以上に「人々から必要とされていない」となれば、もういつだって閉まっちゃってもおかしくないじゃないか! あと5年? いやもしかして3年? あのお店もこのお店もなくなっちゃった世界はどんな風景だろう。

 お店が消え、会話も消え、つながりも消え、人々はただ自分の家にこもり、宅配便の配達の人だけが必死になって「あれ届けてくださいね」「これもお願い」という増え続ける指令に応じてトラックで駆けずり回る街……。いやー、ダメダメ! 悪夢です。

 でもこの大きな流れを前に一体何ができるというのか。だって相手は何の悪気もなく「便利」を求める普通の人たちなのだから。でも皆さんはそんな世界を望んでいるのでしょうか。孤独じゃないんでしょうか。

AERA 2018年3月26日号

著者プロフィールを見る
稲垣えみ子

稲垣えみ子

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

稲垣えみ子の記事一覧はこちら