思い出したのは12年のスケートアメリカで得た教訓。「ショートのことは忘れます」と口にしたことでフリーに集中できなくなった、あのときのことだ。

 口にしたのはこんな言葉。

「ショートで良い演技ができたので、まずは喜びをかみしめて一日を過ごします。そして、明日のフリーに集中します」

 結果フリーでは自分に集中し直し、「SEIMEI」の世界観に溶け込むような演技で4回転3本を成功させる。総合得点は322.40。史上初の300点超えを果たすことになった。

「これまでの全ての経験が、今日の演技につながりました」

 自らを鼓舞する言葉、分析する言葉の力を、羽生は改めて感じていた。

 平昌五輪を控えた17-18年シーズン。17年10月のロシア杯では、自身初となる4回転ルッツへの挑戦を前に宣言。

「誰もが4回転ルッツを期待すると思うし、僕自身もノーミスを期待している。その気持ちには逆らわず、しっかりと期待やプレッシャーを受け止めて、貪欲に挑みたいです」

 初挑戦の4回転ルッツを成功させると、平昌五輪に向けての抱負を聞かれ、こう答えた。

「アスリートなので勝ちたい気持ちは大切にしているし、思ったことは口に出すようにしています。自分としては、劇的に勝ちたいという気持ちがあります」

 羽生らしい、五輪優勝宣言だった。

 その後、11月に右足首を負傷しながら、陸上で、氷上で、五輪に向けて準備を重ね、宣言通り「劇的に」連覇を果たしたことは、周知のとおりだ。

 2月11日、韓国・仁川空港での宣言も、自分を鼓舞するものに他ならない。

「自分にうそをつかないのであれば、やはり連覇したい。どの選手よりも一番、勝ちたいという気持ちが強くあります」

 徹底的に有言実行。それが、羽生結弦だ。(ライター・野口美恵)

AERA 2018年3月26日号より抜粋