彼の居場所や状況を尋ねたが、返答はなく、ただ「シリアを離れたい」と言うだけだった。

 命を懸けて戦う同志を裏切り逃げてきた自分に負い目を感じる人もいた。だが家族のために逃げる決断をしたなら、それも勇気だ。爆撃から命がけで避難し、故郷の将来を築く人になりたいと誓ったジャミル君は、現実を目の当たりにし絶望したのか。あれから音沙汰はなく、彼の安否が心配だ。

 アサド政権、反体制派勢力、イスラム過激派、クルド人勢力、近隣諸国、そしてロシア、米国といった大国の主義主張が複雑に絡み合い、それぞれの権力者が立場を正当化し、相手を非難する。一般のシリア人が望むのは、敵か味方か、正しいか否かではなく、家族が安心して暮らせる日々。争いで犠牲になるのは、生身の人間だ。人には生活や家族、将来がある。それを奪う権利は誰にもないはずだ。(フォトグラファー・清水匡)

AERA 2018年3月19日号より抜粋