この流れは他の棋戦でも顕著だ。昨年、羽生から王位、王座のタイトルを奪ったのは、ともに20代の若手。新タイトルの叡王戦は金井恒太六段(31)と高見泰地六段(24)で争われることが決まっている。A級順位戦は1年に2人しか下のクラスと入れ替わらないため、顔ぶれはゆっくりと変わっていく。

 この流れがいま、加速しつつあるようだ。背後にあるのが来期、C級1組に昇級する藤井聡太の活躍だ。「羽生世代が上にいるのが当然」だった多くの棋士たちの意識を、急成長する15歳が変えた。特に20代の若手たちは、自分が最も活躍が見込める時期に、さらに一回り下の若者にタイトルを独占される恐れがあるのだ。

 将棋界ではかつて、「羽生世代」が活躍する直前、その7、8歳年上の世代がタイトルを次々と獲得した時期があった。この時も新世代の台頭に世間は沸いたが、あっという間に「羽生世代」にのみ込まれてしまった。取れるときに取っておかないと、どうなるか分からない。

 先日、藤井とのタイトル戦の可能性について聞かれた羽生は「藤井さんは将来、間違いなくタイトル戦の舞台に立つ棋士。ただ、そこに私がいるかどうかが問題です」と語った。確かに名人を15期務めた中原誠十六世名人(70)と羽生との名人戦が実現しなかったように、羽生と藤井の名人戦が実現しない可能性もある。それは藤井よりも羽生が名人戦の舞台に立てるかどうかにかかってくる。

 この先、藤井が順位戦を駆け上がった時、A級はどんな景色になっているのか。それを占う上でも今回のプレーオフから目が離せない。挑戦者は22日までに決まる見込みだ。(朝日新聞文化くらし報道部・村上耕司)

AERA 2018年3月19日号