実際、米国が予防戦争をしようとしても難しい。北朝鮮の弾道ミサイルは主として中国国境に近い北部山岳地帯の谷間に掘られた無数のトンネルに、移動発射機に載せて隠されているとみられ、位置不明だからだ。

 時速2万7千キロで周回する偵察衛星は1日約1回、北朝鮮上空を1分間ほどで通過するから、固定目標は撮影できても移動目標の監視はできない。早期警戒衛星は赤道上空を3万6千キロの高度で周回するから、地球の自転と釣り合って、地上からは静止しているように見えるが、この距離ではミサイルは見えない。発射の際に出る赤外線を感知できるだけだ。

 仮に衛星や有人・無人の偵察機によってトンネルの入り口を知っても、電柱のような形状の地中貫通用「バンカーバスター」爆弾GBU28(重さ2.3トン、長さ5.7メートル、直径14.7センチ)は、土を約30メートル貫通できるだけ。山腹のトンネルに届かない公算大だ。発射地域全体を地上部隊で占領しないと確実に破壊できない、とする米統合参謀本部の判断は妥当だ。

 北朝鮮首脳部を狙う「斬首作戦」も論じられるが、要人の所在を正確に知るのは容易ではない。イラク戦争で米軍はイラク全土を占領し、サダム・フセイン大統領を捜したが、拘束は侵攻の9カ月後。CIAはキューバのF・カストロ首相の暗殺を638回も計画したが、彼は2016年に90歳で死去した。

 指揮・通信系統を破壊することも語られるが、当然相手はその系統を複数、多様にするから、すべてを一挙に切断して、発射を防げるとは限らない。

 米国では「ホワイトハウスは統合参謀本部などに作戦の選択肢の提出を求めているが、なかなか出ず、不満がある」との報道もある。仮に無理と知りつつ書いた作戦計画を提出し、もし大統領が「これでいこう」と決断すれば実行せざるを得なくなる。軍人が慎重なのも当然だ。(軍事評論家・田岡俊次)

AERA 2018年3月19日号より抜粋