この会談の3日前、トランプ米大統領は記者団に「良い結果を望む。オリンピックの範囲を超えて話し合いが行われれば素晴らしい」と歓迎の意向を示した。韓国側はトランプ氏に十分根回しをしていたようだ。2月9日の開会式に金正恩氏の妹金与正・労働党第一副部長が出席し、翌日、文大統領に訪朝を要請する親書を提出。25日の閉会式では金英哲同党副委員長と文大統領が会談、「米朝会談の早期開催に努めること」で合意した。

 さらに今月5、6日に韓国の大統領特使・鄭義溶国家安全保障室長らが訪朝、金正恩氏は「非核化問題と関係正常化のため米国と対話する用意がある。対話が続く間、核実験や弾道ミサイルの試射は行わない」と述べ、例年の米韓合同演習の実施にも理解を示した。南北双方は巧みな外交で、少なくとも当面、戦争回避に成功したようだ。

 もし戦争になれば、南北は共に存亡に関わる大打撃を受け数百万人の犠牲者が出る形勢だから、双方の指導者が戦争を防ぐために必死の努力をしたのは当然だ。戦争になれば巻き込まれる公算の高い日本で、それを「融和的」と非難する声が出るのは、戦争を考えない「平和ボケ」の症状だ。

 だが南北会談が米朝対話に進展しても、北朝鮮が核を放棄する可能性は低い。トランプ氏は2月23日の記者会見で「経済制裁が機能しなければ、第2の局面に移行する。それは極めて荒っぽく、世界にとって非常に不幸なものかもしれない」と武力行使を示唆。圧力を加えつつ対話も望む意向を表明している。

 米国内では「国民の生命を守るのが第一、北朝鮮が米本土に届くICBMを配備する前に叩くべきだ。他国の犠牲に構ってはおれない」と、従来国際法違反とされてきた「予防戦争」を公然と唱える政治家、論客も出ている。

 だが米統合参謀本部は昨年10月、上下両院議員16人から出ていた質問主意書に書面で回答。

「北朝鮮の核兵器は地下深くに保管されており、位置を確定し全てを確実に破壊するには地上部隊の侵攻が唯一の手段。我々は軍事行動よりも経済的、外交的な解決を支持する」と述べ、戦争反対の姿勢を鮮明にした。

 国防長官J・マティス海兵大将(退役)も「軍事的解決に突き進めば信じがたいほどの悲劇的事態となる」と武力行使に慎重。大統領首席補佐官J・ケリー海兵大将(同)も同様だ。大統領が軽挙妄動しないよう、軍人がシビリアンをコントロールする逆転現象だ。

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