続く「お気に召すまま」では、小栗旬ら若手の人気者と共演した。蜷川からは、シェイクスピアのせりふにてこずる彼らの指導係を頼まれた。

「あれがシリーズを引き継ぐことにつながった。最近、ひしひしとそう感じます」

 2代目芸術監督としての最初の作品は、演出・主演を兼ねた「アテネのタイモン」。昨年12 月に開幕した。

 金持ちの貴族タイモンは、周囲に気前よく金品を贈り、食事を振る舞っているうちに財産をなくしてしまう。とたんに冷たくなった友人たちに愕然(がくぜん)とし、森にこもり、世を呪う。

「開幕までは、これまで感じたことのないプレッシャーがあった。稽古場では『これでいい』と確信を持って一つ一つの場面を作っていたつもりだけれど、『全体をつないだら、全くダメになるのでは』とささやくもう一人の自分がいて、恐ろしかった。胃が痛んで、1週間くらいメシが食えなかった」

 そんな時、大きな手応えになったのが、毒舌家の哲学者役の藤原竜也との場面だ。二人は、ののしり合いながら抱き合う。

「演出ではなく、偶発的に生まれた表現です。お互いに命がけでないと出てこない演技だった。そうしたものの積み重ねで、結果として、いい評価をもらえたので、ほっとしています」

 蜷川の後を継ぐのは確かに重圧だ。一方で自負もある。

「口はばったいけれど、『志』は、蜷川さんと同じだと思っている。シェイクスピアのとらえ方、作り方も。シェイクスピアという素晴らしいものを共有している『同志』なんです」

 来年は「ヘンリー五世」に取り組む。

「蜷川さんが劇場の顔に育てた『彩の国シェイクスピア』の灯を、消してはいけない」

 年齢と経験を重ね、もう一度やりたい役、作品も多い。

「無事37作が終わったら、『もう一周』ってどうかなあ」

(朝日新聞報道局・山口宏子)

AERA 2018年3月12日号