高校生たちの深刻な訴えは、銃規制をアジェンダにすらあげたくないトランプ大統領を、議論の土俵に引きずり込んだ。ただ、約2年半後の再選をにらむトランプ大統領は、最大の支持基盤の全米ライフル協会(NRA)が、「銃は人を殺さない。人が人を殺す」をスローガンに強く反対する銃規制には深く関わりたくない。板挟みとなったトランプ大統領が考えついたのが「教師の銃武装」だった。

「銃の扱いに熟練した教師がいれば、攻撃を極めて迅速に終わらせることができた」

 2月21日、銃乱射事件の遺族や高校生らとの面会時に突然、教師の銃武装を主張したトランプ大統領は、その後も発言を繰り返し、「年次訓練の実施」「年間ボーナスの提供」などを強調した。一方で、銃購入時の身元照会や精神状態の確認の強化、ライフル銃の購入年齢の引き上げにも言及。1発ずつしか撃てない半自動小銃を連射可能にする「バンプストック」と呼ばれる改造装置を禁じる大統領令にも署名する考えだ。

 年齢や身元照会で限定的に銃の所持を規制する一方で、教諭が銃武装をすれば結果的には銃の売り上げや需要につながる。この二つがセットになっての提案で、結果的にはNRAを利する余地を残している。自らを「天才」と呼ぶトランプ大統領にとってはまさに「妙案」。実現できなくても、「民主党やメディアが反対した」と、政敵の攻撃材料にできる。2月日に米ジョージア州の高校で教師が教室の窓から銃を発砲する事件が起きたことには沈黙しつつ、今後も折を見て教師の銃武装論を主張するだろう。

 政治の権力争いもあって、銃規制ができずに来た米社会。生徒や学生たちは銃乱射のみならず、政治ゲームの犠牲にもなっている。(編集部・山本大輔)

AERA 2018年3月12日号