結局、労働者に裁量があるのは業務の「進め方」で、業務の「量」ではない。前出の佐々木さんは裁量労働制を「定額働かせ放題」だと懸念していた。

「業務量にも納期にも裁量はなく、長時間労働の改善どころか助長につながるのは目に見えていました」(佐々木さん)

 最近相談が多いのはSE(システムエンジニア)だという。納期が厳しく途中でクライアントから修正依頼が入ることも多い。決められた賃金で月160時間の残業をこなすケースもあったそうだ。裁量労働制の対象者が体調を崩す例も報告されている。2011〜16年度、脳・心臓疾患で労災補償の支給決定は22件、精神障害は39件(厚労省)。すでに苦しむ人がいる。

「裁量労働制を適用するには、専門業務型は企業の労使協定、企画業務型は労使委員会での5分の4以上の賛成と社員本人の同意が必要ですが、実際はこれらの手続きを踏んでいなかったり、専門業務型なのにそれ以外の仕事もさせているなどの違反も多い。裁判を通じて残業代と同額程度の支払いを求めることも可能ですので、確認してみてください」(佐々木さん)

 心配は、まだある。安倍首相は「高度プロフェッショナル制度」について、引き続き成立を目指すとした。高収入の一部専門職を対象に労働時間の規制を外すもの。これも基準の年収を引き下げたり、専門職の範囲を広げたりすれば、対象者が増える。その懸念は同じだ。「残業代ゼロ」は、まだ消え去ったわけではない。(編集部・竹下郁子)

AERA 2018年3月12日号