「広瀬戦の4四桂のように、普通の人には見えない手が見える。これは詰将棋から来ている感覚なのかもしれません。つまり、詰将棋では普通『ありえない』手がありえるということ、将棋の可能性として、盤にはとんでもない手が眠っているということ、そういう認識がどこかで藤井くんの読みの中に感覚として身についているのではないかと思っています」

 藤井六段を小学生時代から知る若島さんは、こうも話す。

「詰将棋とは関係なく、自然に強いということも感じます。実は、詰将棋慣れした人間にはこれがなかなかできません。だから、わたしの目からすると、藤井くんは将棋の才能もあるのだなあ、という感じです」

 CS放送では、将棋のAI(人工知能)「Ponanza(ポナンザ)」による形勢判断も随時、画面に表示された。準決勝、決勝を通じて、「藤井劣勢」とされた局面はなかった。ポナンザが常駐するアプリ「将棋ウォーズ」を運営する「HEROZ」の林隆弘社長(41)はプロ棋士の棋譜をポナンザにかけて分析している。強い棋士には、ポナンザの推す有力な手との一致率の高さだけではなく、もう一つの特徴があることに気づいたという。

「それは、急所の局面で踏み込むことです。藤井六段は派手な手も多い一方、極めてミスが少なく、そして急所ではリスクをとっています」

 藤井六段は次回の朝日杯は本戦(ベスト16)から登場する。一段と美しく強くなった「華」を見るのが今から楽しみだ。(朝日新聞文化くらし報道部・山口進)

AERA 2018年3月5日号