「ショートで1、2位の僕とハビエルは、サルコーとトーループでまとめている。宇野君は難しい4回転を入れて高得点を取っている。どちらも正解。その選手に合った理想を目指せばいい」

 出した答えは、「トーループ2本、サルコー2本」。そのうち2本は前半、2本は後半に入れる。あまり挑戦したことのない構成だったが、

「最初のサルコーさえ降りれば、前半の感覚で後半もできると思いました。サルコーもトーループも何年間もやってきたので、身体が覚えてくれているだろう、と。スケートができない期間があったからこそ作戦を学び、勝つためにオリンピックに来られた。ループを跳びたいではなく勝ちたい。やりたいのは連覇ではなくて、この試合で勝つこと」

 本番では冒頭の4回転サルコー、トーループを華麗に決めると、自信をもって滑り抜いた。着氷が乱れるミスはあったが転倒も回転不足もゼロ。4本の4回転という基礎点の高さが効果を発揮し、FS206.17点、総合317.85点をマークした。

 翌朝、金メダルを胸にこれまでの4年間を改めて振り返る。

「自分の人生設計のなかでは、中間地点くらいに来ています。スケートを始めたころ、『オリンピックで金メダルを取るんだ』と思っていた自分に『本当に取れたよ。いろいろあるけれど、練習頑張れよ』と言いたい」

 今後は何が目標になるのか。

「4回転アクセルをやりたいです。小さい頃の自分だったら、前人未到だからと言うと思います。でも取るものは取ったし、やることはやったから。今の気持ちは、やっぱりトリプルアクセルにかけてきた思い、時間、練習がどのジャンプよりも多いから。アクセルを得意として、そして大好きでいられることに感謝して、4回転アクセルを目指したいです」

 大好きなジャンプをひたすら跳びたい。そんな少年の心にたどり着いた。(ライター・野口美恵)

AERA 2018年3月5日号より抜粋