「夕方発注しても早ければ深夜、遅くとも翌朝までには仕上がっているので、ビジネスがストップしない」(酒井さん)

 コストも一般的な翻訳会社の約半分に抑えることができたという。

 なぜGengoは人力なのに、そこまで早くて安いのか。東京・渋谷にある同社のオフィスを訪ねた。出迎えてくれたのはCEOのマシュー・ロメインさん。創業のきっかけはソニーのエンジニア時代の経験にあるという。

「エンジニアとして雇われているのに、しょっちゅう翻訳を頼まれるんです。理由は、メールの短い文章であっても、翻訳会社に頼むとなると見積もりから納品まで何日もかかるから。だったら世の中のちょっとした翻訳ニーズをテクノロジーで解決しようと考えました」

 同社では世界中で2万1千人の翻訳者をネットワーク化。翻訳依頼が入るとウェブ上で瞬時にマッチングするシステムを作りあげた。対応言語は37カ国語。夕方頼んでも、翌朝までに翻訳が出来上がるのは、すべてのタイムゾーンに翻訳者がいるからだ。しかも請け負うのは、翻訳先の言語のネイティブで合格率3.6%という厳しい審査をクリアした人のみ。英語だと英検1級、TOEIC950点以上に相当するレベルだという。

 私たちが英語コンプレックスに悩み、毎年、「今年こそは」とできもしない誓いを立てたりしている間にも、言語の壁を取り払うテクノロジーは日々進化している。AIの登場で、そのスピードは加速する一方。いまやビジネスの現場では、「英語力を上げる」ことに心血を注ぐよりも、こうしたテクノロジーを味方につけ、うまく言語の壁を乗り越える力が問われる時代なのだ。(編集部・石臥薫子、高橋有紀)

AERA 2018年3月5日号より抜粋