「『はい』や『いいえ』などの簡単な意思は、短い言葉や表情で返してくれるので、それで判断します。食事をしたり、ラジオを聞いたり、いまはどうすれば彼女がケラケラと笑ってくれるかを考えることが、僕を含めて家族の喜びなんです」(忠)

 映画「リバーズ・エッジ」を監督した行定は、この映画を撮っている間ずっと、リバー(川)という歴史のエッジ(縁)に立たされているような感覚だったと語る。

「登場人物のハルナや同級生たちは、過ぎていった時代の子どもたち。平坦な戦場という、何と戦っているかも分からない時間、つまり青春の中にいる。原作が発売された直後の95年に地下鉄サリン事件が起こって、世の中の価値観が大きく変わっていった。それから世界では日常的にテロが起こり、ついには凄惨(せいさん)な事件が報道されても驚かないくらいになってしまった」

 誰もが大きな時代の空気にのまれていて、最後まで何かへの途上にいる。そしてギリギリの岐路、つまり、“リバーズ・エッジ”に立っている。だから共感できるのだと行定は語る。

『リバーズ・エッジ』は、時代や世代を超えて限りない日常を生き続けるための生存戦略であり、処方箋なのだ。(文中敬称略)(ノンフィクション作家・中原一歩)

AERA 2018年2月26日号より抜粋