「ちょうどカナダを旅行している最中にスマホに『NYダウが史上最大の下落を記録』とニュース速報が流れたんです。気づいたときには、5千万円近くが吹き飛んでいました……」
こう話すのは外資系投資銀行でシステムエンジニアを務めた経験を持つ40代の個人投資家Aさん。株やFX、仮想通貨で数億円の資産を築いていたが、その2割近くを2月5日の1日で溶かしてしまったという。
Aさんをどん底に突き落とした金融商品は、金融大手クレディ・スイスが手掛ける「ベロシティシェアーズ・デイリー・インバースVIX短期ETN」。通称「XIV」だ。VIX指数と正反対の値動きをする金融商品だ。
VIXとはアメリカのシカゴオプション取引所が算出している指数で、別名“恐怖指数”。文字通り、投資家が恐怖に震えると上昇する。おのずとNYダウやS&P500などの代表的な株価指数には反比例する。XIVは、VIXが上がれば下がり、逆に、株高局面(VIXは下落)では大きなリターンを生み出すため、近年、一部の投資家の間で人気を博していた。
マーケット解説者の岡村友哉氏が話す。
「アベノミクス以降の世界的な金融緩和の流れを受けて、VIXは下げ続けていた。2008年のリーマン・ショック時には80まで吹き上がったのに、直近は9台まで低下していた」
そのため、VIXの正反対の値動きをすれば着実なリターンをもたらすともてはやされ、個人投資家も手を出しやすい金融商品が組成された。実際、17年からの値動きを見ると、XIVは50ドル台から140ドル台に、野村ホールディングスのグループ会社が作った「VIXインバース」は1万5千円から4万円台に駆け上っている。
Aさんも「1200万円で購入したXIVが3年足らずで5千万円に値上がりした」という。
だが、2月2日に発表された米経済指標が予想を上回る数値だったため、インフレ懸念が高まり、「利上げ加速→長期金利上昇」という連想から、NYダウが暴落。週明け5日には一時1597ドル安を記録した。VIXは直前まで9前後だったのが、15に跳ね上がり、5日は一時30を超えた。