漫符のインパクトがさまざまなパロディーを生んだ例には、『ガラスの仮面』の「白目」がある。激しい衝撃に襲われた時、登場人物たちの黒目はなくなり、白目が描かれる。

 こうした表現は、東村アキコなどが好んで「引用」している。『ガラスの仮面』を読んでいた読者が描き手に回って、ある用法が強化されていくのだ。

 誰もが目にしたことがあり、身近だからこそ、きちんと扱われてこなかった漫符。こうのさんはこうした漫符を収集、整理したうえで、説明とともに、4コマ漫画を読めるスタイルを考えた。

 本書には「独立して描かれる漫符(46個)」「何かに接するように描かれる漫符(24個)」「動作・体の一部の漫符(34個)」と、合計104個の漫符が採集されている。

 どんなきっかけで漫符をテーマにしようと考えたのか。

「漫符について考えるようになったのは、『荒神』の挿絵を描いているときです。1枚絵で物語を説明するときに、漫符は使えないんですよね。漫符を描くと、どこか嘘っぽくなるというか。漫画とイラストは違うんだな、とあらためて思いました。使えなくなってみて初めて、自分がいかに漫符に頼っていたのか、ということを確認したんです。あ、そうは言ってもコミカルな場面で『ハート』は使いましたかね(笑)。ともあれ漫符がいかに便利なのかを痛感して、漫符の事典を作りたい、と考えるようになりました」

『ギガタウン』に登場するのは、「鳥獣人物戯画」に描かれたウサギやカエルたち。こうのさんの手によって、おなじみの動物たちが、ランドセルを背負ったり、買い物や料理をしたり! 『サザエさん』さながら、4コマ漫画のキャラクターとして現代の日本で活躍するのだ。

 主人公はお調子者のウサギのみみ。みみの一家は父親と母親、弟の4匹家族だ。みみの同級生はクールなカエルのあおい君や猿のきい子、担任はキツネの紺野先生だ。

「4コマ漫画の登場人物として、最初はまったく違うキャラクターも考えていました。ただ、漫符を強調するなら、キャラクターは人間ではなく、動物でもいいのかな、と」

次のページ