稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年、愛知県生まれ。元朝日新聞記者。著書に『魂の退社』(東洋経済新報社)など。電気代月150円生活がもたらした革命を記した魂の新刊『寂しい生活』(同)も刊行
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年、愛知県生まれ。元朝日新聞記者。著書に『魂の退社』(東洋経済新報社)など。電気代月150円生活がもたらした革命を記した魂の新刊『寂しい生活』(同)も刊行
冬の夜は鍋と熱燗と決めている。部屋が寒くなきゃこの幸せは味わえまい(写真:本人提供)
冬の夜は鍋と熱燗と決めている。部屋が寒くなきゃこの幸せは味わえまい(写真:本人提供)

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【写真】稲垣さんの夕食「生姜と酒粕入りの鍋と熱燗」はこちら

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 東京では先日、2度目の雪が降りまして、前後は氷点下の気温が続きました。と、すかさず何人かの方から「大丈夫ですか」とメール。暖房なしで暮らす私を心配してくださったのです。ああ他人様からのなんと温かいお気遣い、50代独身女の心には誠に深く沁み入ったのでありました。

 ですが私、実はメールを頂いて初めて、「言われてみればちょっと寒いかも」と認識したのです。つまりはフツーにやっておる。心配の甲斐ナシ。すまぬ……っていうか寒くないわけじゃないんですよ。でもノー暖房生活7年目となると冬は寒いのは当たり前で、寒いなあと思いつつ淡々と生きている。常時寒いから、寒さがキツくなった程度じゃ動じないようなのです。イヤー慣れってすごいっス! あれほど寒さギライだった私がこんなことになっちゃうとは。

 とはいえ無策というわけではなく、現在の寒さ対策は以下の通り。(1)夕食は生姜と酒粕入りの鍋(2)冷たいものを飲み食いしない(3)室内でも手首足首はカバー(4)銭湯へ行く(5)茹でコンニャクで腹を温めつつ就寝……どれもこれも、暖房を使っていた時はやろうとも思わなかったことばかりです。まー人間、追い詰められたらなんでもやるな。しかし小さな工夫も積み重ねればバカにならず、最近はよほど寒くなければ湯たんぽすら使いません。

 夜はだいたい縫い物タイムですが、毛布を肩にかけ分厚い靴下を履き、白い息を吐きながらラジオを友にチクチク手を動かすのは冬ならではの静謐なひと時……と自分に言い聞かせてたら、本当にそんな気がしてきた。

 で、不思議なのは、暖房を使っている人のほうが寒さを苦にするということです。みんなが「寒くてつらい」と盛り上がっている時、微妙についていけず曖昧な笑みを浮かべる私。でも確かに考えてみれば、暖房って寒さと全面対決する武器だから、使うほどに関係は損なわれる。私は武器を捨て、友好条約を結んだってことなのか。いずれにせよ人生の大敵が一つ減りました。誠にハッピーであります。

AERA 2018年2月19日号

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稲垣えみ子

稲垣えみ子

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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