移住希望者の9割以上は定住する。町の公務員の給与より多い収入を得ているトマト農家もいるという(写真:南会津町提供)
移住希望者の9割以上は定住する。町の公務員の給与より多い収入を得ているトマト農家もいるという(写真:南会津町提供)
【南会津町(福島県)】星良栄さん(49)/1990年入庁。趣味は「野遊び」と「蕎麦打ち」(写真:南会津町提供)
【南会津町(福島県)】星良栄さん(49)/1990年入庁。趣味は「野遊び」と「蕎麦打ち」(写真:南会津町提供)

 福島県の南会津町に、若者が移住するケースが出始めている。背景には、「地方創生」に奮闘する裏方の存在があった。

【写真】福島県南西部の南会津町、総合政策課主任主査兼地域振興係長 星良栄さん

ある時はイベントで就農者を募集したり、またある時は、就農希望者と町とのつなぎ役になったり、文字通り「裏方」として地方創生のために飛び回る。

 星良栄(りょうえ)さん(49)。福島県南西部の南会津町、総合政策課主任主査兼地域振興係長だ。

 町は、ブランド野菜「南郷トマト」の生産で知られる。しかし高齢化に伴う後継者不足に頭を悩ませていた。そんな時、冬場に首都圏から町内のスキー場に遊びに来ていたスノボ好きの若者たちが町に移住するようになった。トマト生産者は冬場にスキー場で働いていたが、そんな生活に都会の若者が魅力を感じ移住するようになったという。

 就農希望者には研修期間中は年150万円、就農直後は年最大150万円の資金補助や家賃3万円の住宅も準備するなど、手厚い支援が用意されている。しかし、お金では解決できない問題も少なくない。農業で本当に生活していけるのか……。星さんは、そんな就農希望者の悩み相談にも乗る。心掛けているのは、「一歩引いて移住者と地域住民の間に立つ」こと。移住希望者が移住して自立した後、「地元の人」になってもらうには、自治体はお節介を焼きすぎてはいけないという。町の人口は1955年の約3万5千人(合併前の1町3村の合計)をピークに右肩下がりで、2010年には約1万8千人と48%も減少した。しかし、星さんたちの取り組みの結果、Iターン就農者は年1組近くいて、高齢化が迫った産地を下支えするようになった。高校生と中学生、2人の娘がいる星さんは思いを語る。

「僕の子どもたちが大人になって一度外に出ても、戻ってきたいと思う町にしたいですね」

(編集部・野村昌二、柳堀栄子)

AERA 2018年2月19日号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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